同級生にMという男がいた。
あだ名は「カバ」。カバ顔だったからなのか、
何事にもトロ臭かったからなのか、由来は知らない。
たぶん、その両方だろう。
たしかに変わった男だった。
奇人といってもよく、吉本興業の
お笑い芸人が束になっても敵わない
くらい、天然ボケ的なおかしみがあった。
カバはみんなからこづかれたり、どつかれたり、
ほとんど人間扱いされなかったが、いつもヘラヘラ
笑ってた。まれに歯向かって突進してくることもあったが、
闘牛士にマヌケな牛が軽くあしらわれるみたいに、
ひょいといなされ、尻を思いきり蹴り飛ばされるのが
オチだった。
カバはどんな虐待にも堪えた。パンツを下ろされたり、
沼の真ん中でボートから突き落とされ、
「カバなんだから、岸まで泳げ!」
とむちゃくちゃ言われても、決してめげなかった。
カバは犬かき?で必死に泳いだ。
カバは鉄砲が撃ちたいからと、自衛官になった。
だが、ほどなく営門から追っ払われた。
たぶん、とんでもないドジを踏んだのだろう。
その後、結婚もした。
相手はもちろん人間のメスで、可愛いフィリッピーナだった。
しかし1週間で逃げられてしまった。
たぶん、途方もないドジを踏んだのだろう。
カバの人生はドジの連続だった。
今であれば典型的ないじめの事例といえるが、
昔はごく当たり前のできごとだった。
子供は本来、残酷な生き物なのである。
それでもカバは自殺もせず、ひきこもりもせず、
毎日学校へ通った。
なぜかって? カバはみんなから愛されていたからだ。
武者小路実篤に『馬鹿一』という作品がある。
馬鹿一はお人好しで理想主義者だった。
みんながからかい半分に「はい、これプレゼント」と、
道端でひろった石っころを手渡すと、
馬鹿一は目を輝かせて喜んだ。
「この世は美しいものでいっぱいだから、
醜いものを見てるヒマがない」
と馬鹿一は言った。その目はいつも澄んでいた。
カバは馬鹿一だったのかもしれない。
生きてるのか死んでるのか、その後の消息は聞かない
(↑風の噂ではどうやら生きてるらしい。同窓会にも出るという)。
でも、時々、カバのあのとぼけた顔を思い出す。
あんな純情な男を、ボートから突き落とすなんて、
思えばひどいことをしたものだ。
悪いのは、みんなA君だからね。
いや、ひょっとするとN君も共犯だろう。
M君! 誓って言うが、ボクは無実です。
恨みを晴らしたいのなら、及ばずながら助太刀いたしますゾ。
あだ名は「カバ」。カバ顔だったからなのか、
何事にもトロ臭かったからなのか、由来は知らない。
たぶん、その両方だろう。
たしかに変わった男だった。
奇人といってもよく、吉本興業の
お笑い芸人が束になっても敵わない
くらい、天然ボケ的なおかしみがあった。
カバはみんなからこづかれたり、どつかれたり、
ほとんど人間扱いされなかったが、いつもヘラヘラ
笑ってた。まれに歯向かって突進してくることもあったが、
闘牛士にマヌケな牛が軽くあしらわれるみたいに、
ひょいといなされ、尻を思いきり蹴り飛ばされるのが
オチだった。
カバはどんな虐待にも堪えた。パンツを下ろされたり、
沼の真ん中でボートから突き落とされ、
「カバなんだから、岸まで泳げ!」
とむちゃくちゃ言われても、決してめげなかった。
カバは犬かき?で必死に泳いだ。
カバは鉄砲が撃ちたいからと、自衛官になった。
だが、ほどなく営門から追っ払われた。
たぶん、とんでもないドジを踏んだのだろう。
その後、結婚もした。
相手はもちろん人間のメスで、可愛いフィリッピーナだった。
しかし1週間で逃げられてしまった。
たぶん、途方もないドジを踏んだのだろう。
カバの人生はドジの連続だった。
今であれば典型的ないじめの事例といえるが、
昔はごく当たり前のできごとだった。
子供は本来、残酷な生き物なのである。
それでもカバは自殺もせず、ひきこもりもせず、
毎日学校へ通った。
なぜかって? カバはみんなから愛されていたからだ。
武者小路実篤に『馬鹿一』という作品がある。
馬鹿一はお人好しで理想主義者だった。
みんながからかい半分に「はい、これプレゼント」と、
道端でひろった石っころを手渡すと、
馬鹿一は目を輝かせて喜んだ。
「この世は美しいものでいっぱいだから、
醜いものを見てるヒマがない」
と馬鹿一は言った。その目はいつも澄んでいた。
カバは馬鹿一だったのかもしれない。
生きてるのか死んでるのか、その後の消息は聞かない
(↑風の噂ではどうやら生きてるらしい。同窓会にも出るという)。
でも、時々、カバのあのとぼけた顔を思い出す。
あんな純情な男を、ボートから突き落とすなんて、
思えばひどいことをしたものだ。
悪いのは、みんなA君だからね。
いや、ひょっとするとN君も共犯だろう。
M君! 誓って言うが、ボクは無実です。
恨みを晴らしたいのなら、及ばずながら助太刀いたしますゾ。
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