2016年4月28日木曜日

『カエルの楽園』余滴

久しぶりに歯ごたえのありそうな仕事が舞いこんできた。
毎日、キリギリスのように歌ったり踊ったりして遊んでばかりいるので、
「奥方を働かせ、酒ばかり喰らっておる。おい、少しは女房孝行したらどうだ?」
おそらく天の声だろう。某出版社から秋口までに2冊の本を書いてくれとたのまれた。
5ヵ月で2冊? ウーン、老骨の身にはちょっと厳しいかも。
放蕩三昧のキリギリスが急にアリになれと云われてもねェ……。

で、いまはしぶしぶ資料読みに精出している。
概して資料や参考文献というのは、どれもたいがい面白くない。
歴史学者の磯田道史は「資料読みほど心躍るものはない」
などと云っているが、ボクはそれほど面白いとは思えない。

資料に目を通していると、書くテーマが徐々に絞り込まれてくる。
最初は頭の中がグチャグチャで、何がなんだか収拾がつかないような状態だが、
時が経つとだんだん発酵してきて、いい香りを放ってくる。
その発酵期間がたっぷりあれば、比較的よい原稿が書ける。

朝早くから資料読みばかりしていると、さすがに飽きる。
そんな時は何をするかというと、近くを散歩したり、軽い筋トレをしたりして
気分を変える。学生の頃はよく小説を読んでいた。試験が近くなると、
肝心の試験勉強をせず、まるで関係のない小説の世界に逃避していたのである。

そのクセが抜けきらないのか、いまでも貴重な時間をつぶして小説に没頭したり
してしまう。ボクは筋肉が「速筋(白い筋肉)」で、瞬発力には優れているが
持続力がない。逆に女房は「遅筋(赤い筋肉)」で、マラソンなどが得意だった。
この筋肉の違いは脳の働きにも係わっているのか、女房はコツコツと仕事を
積みあげていくタイプだが、ボクはまったく逆で、ほとんど一夜漬けみたいにして
仕事と向き合う。崖っぷちに追い込まれないと、容易に腰を上げないのだ。

というわけで、資料読みの合間に小説を読んでいる。
百田尚樹の『カエルの楽園』(新潮社)がそれで、2時間ほどで読み終わってしまった。
これは私の最高傑作だ」と百田は臆面もなく自画自賛しているようだが、
例によって朝日など左翼反日新聞などからは完全に黙殺され、
アマゾンで売れゆきナンバーワンの本なのに書評欄に取りあげられることはない。
その理由は読めばよく分かる。

帯にはこうある。
《安住の地を求めて旅に出たアマガエルのソクラテスとロベルトは、
平和で豊かな国「ナパージュ」にたどり着く。そこでは心優しいツチガエルたちが、
奇妙な戒律を守り穏やかに暮らしていた。ある事件が起きるまでは――》

背表紙には《全国民必読。圧巻の最新長編》とある。
大きく出たものだが、〝最高傑作〟かどうかはともかく、まあまあ面白く読めた。
これはあくまで寓話だが、読んでいて、著者が何を言いたいのかすぐわかった。
結論のつけかたまで予測できた。なぜか? 百田とボクの頭の中身はそれほど
異ならず、国の行く末に関しても、同じような考え方を持っているからだ。

この寓話の中にはハンドレッドというひねくれ者が出てくる。
名前からして、もろ筆者の分身である(笑)。
「デイブレイク」とは何か? 「スチームボート」とは何のことか? 
「ハンニバル」は何の表意であるか? 「三戒」とは? 念の入ったことに、
尻の青い「フラワーズ」まで登場してくる。

よほど世情に疎いバカでないかぎり、これらが何を意味しているかはすぐ分かる。
江戸末期にこんな狂歌が流行った。

   泰平の眠りをさます上喜撰 たった四杯で夜も眠れず 

デイブレイクにしてもスチームボート(蒸気船→黒船→美国)にしても、
あまりに直截な表現なので、つい笑ってしまった。

「三戒」を守っていれば、平和な楽園が保てるとするツチガエルたち。
凶暴なウシガエルたちに〝友情草むら〟を提案し、ノーテンキな共存を
夢見るおバカさんも出てくる。
「東シナ海を友愛の海にしよう」
と提案した宇宙人みたいな元総理がいたが、
せっかくカエルに生まれ変われたのに、相変わらずバカをやっている。

「こんど(ハンドレッド氏と)一緒に一杯やりませんか?」
某雑誌の編集長から誘われたことがある。
面白そうだが、カエルと盃を交わし合うのは、
ずっとずっと先のお楽しみにしておこう。


※追記
28日、元デイブレイク、じゃなかった朝日新聞の論説主幹・若宮啓文氏が
訪問先の支那は北京市内のホテルで死亡していることが分かった。
死因は分かっていない。享年68。



←朝日、毎日などの左翼反日メディアは、
たぶん徹底無視するだろうな。でも、ここに書かれた
警世の中身を真剣に考えなければ、ニッポンの
day-breakはありませんぞ。



2016年4月25日月曜日

我こよなくロクデナシを愛す

ボクは徹頭徹尾リアリストだが、実は理想主義者でもある。
また「性善説」にも一理あると思っているし、「性悪説」にも共感する。
人間観や人生観なんて人それぞれで、ボクのそれを煎じ詰めると、
《人間なんてみな欲深で助平で自慢話の好きなロクデナシばかり。
でもそのロクデナシが時々よい行いをする。小さな花に涙したりする。
ゆえにロクデナシを愛す。人間って面白い!》ということになる。

人間ほどおもろいものはない――これがボクの追い求める変わらぬテーマだ。
だから拙著のどれにもこのテーマが通奏低音のように流れている。

おいしい儲け話をもちかけると、小金を貯め込んだ老人たちは「どれどれ」
とばかりに身を乗り出す。明らかにマルチ商法っぽい手口なのだけれど、
欲深な目は曇っていて、その正体が見抜けない。詐欺と判ったときは
すでに遅く、苦しまぎれに「被害者の会」などを結成したりするが、
世間の目は冷たい。
「欲の皮が突っ張っていただけの話。自業自得ってやつよ」

男も女も助平だというのは当たり前で、助平でなければ人類はとっくの昔に
滅びている。歳を取っても助平は変わらず、そのことは市民プールなんかに
行くとよく分かる。高齢者向けの水泳教室は元気なジジババであふれかえり、
インストラクターが若いきれいなネエちゃんだったりすると、ジジたちの目が
ギラギラと燃えさかる。ボクはその光景を見るにつけ、
「ありゃあ、水泳教室じゃなくて〝回春教室〟だな」
と秘かにつぶやくのだが、
(あと10年もしたら、おれも仲間に入れてもらおう)
などと虫のいいことを考えている。助平では人後に落ちない。

ボクの苦手なのは自慢話の好きな人。
この手の人は隠居の身であるのに、どこそこの一流大学出で、
上場一部の会社に入り、億の単位の商談をまとめたこともあるのだよ、
などと、問わず語りにしゃべり出す。自分はそのへんに転がっている
ただの年寄りとは違うんだ、年金だってたっぷりもらっているし、
月に何回かはゴルフにも行ってる。それに、孫が東大に受かったんだよ。
どうだ、畏れ入ったか?

ボクの敬愛する斎藤緑雨はこんな警句を吐いている。
老者の道徳は、壮者の香水に異ならず
わかる、わかる……問題は香水ほどの実効があるかどうかだな。

小林秀雄『年齢』という小文の中で、こんなふうに述べている。
私は、若い頃から経験を鼻にかけた大人の生態というものに鼻持ちがならず、
老人の頑固や偏屈に、経験病の末期症状を見、これに比べれば、
青年の向こう見ずの方が、むしろ狂気から遠い》と。
小林には賛成するけど、実のところ、
無知な青年の驕慢も鼻持ちならないんだよね(笑)。

《年寄りのバカほどバカなものはない》と師匠の夏彦は言った。
人生教師になるなかれ――人は歳をとると教えたがる傾向があるが、
歳なんて勝手に押し寄せてくるもので、教える資格が自動的に生ずるわけではない。
孟子も言っている。
人の患いは好んで人の師となるにあり
2000年も前の言葉が今も相変わらずなのだから、
人間は千年も万年もずっとこのままだろう、という諦めに近い思いはある。

ボクは頑固で偏屈なロクデナシだが、人生教師になろうとは思わない。
たまに説教くさい話もするが、努めてくさみを消すように気をつけているし、
いつだって含羞のオブラートに包むようにしている(つもり)。

偉そうに話をする人には、心の中で、
「それがどうした!」
と応じている。英語でいうなら〝What about it ?
緑雨に云わせると、この一句で
たいがいの議論は果てるという。ぐうの音も出ぬと云う。




←「ボクは東大の法科を出てるんだ」
「What about it ? それがどうしたんだよ!









2016年4月21日木曜日

何があっても大丈夫?

■4月某日 晴れ
都内某所の暗くて狭い部屋で櫻井よしこさんと会った。
某出版社の社長が引き合わせてくれたのだ。
目の前に現れた櫻井さんはゴージャスな着物姿だった。
夕方から英国大使館で、エリザベス女王在位60周年を祝うパーティに
出席するのだという。
「ドレスコードがあって、イヴニングドレス着用のこととあったんですが、
わたくし、イヴニングを持っていないの(笑)。で、着物にしました」

初めてお会いするのだが、実に美しい人だ。
言葉づかいはもちろんのこと、物腰が柔らかく、笑顔が自然で、
少しもイヤミがない。腰も低く、誰に対しても対等の目線を持っている。

「10年ほど前でしょうか、月刊『文藝春秋』の連載で、長岡でロケをいたしました。
その時、ご一緒し、小嶋屋でへぎそばを食べたのが私の女房です。憶えて
いらっしゃいますか?」
ボクが図々しくもそんな挨拶をすると、
「ああ、あの時の……よく憶えております。大変お世話になってしまって……
どうか奥様によろしくお伝えください」
ボクのカミさんはフリーの料理記者。『文春』の仕事で数年間にわたり、
有名作家たちといっしょに全国各地を旅して回った。

ボクは〝大好物〟の櫻井さんに会えるというので、朝からそわそわ。
このシャツがいいか、それともこっちのシャツか……などと鏡の前で
取っかえ引っかえ。結局、麻製の黒いシャツを選んだのだが、
まるでヤクザみたい……相変わらず趣味わるいわね」と女房。
近所のこどもに「おじさん、人さらいに見えるよ」と言われたくらいだから、
人相の悪いのは自覚しているが、ヤクザはないでしょ、ヤクザは。

それと櫻井さんに会うという僥倖に舞い上がっていたのか、
会う直前のわが家での昼食に、生ニンニクを大量に食べてしまった。
昨夜の残りものの「アジのたたき」を女房といっしょに食べたのだが、
よせばいいのに生ニンニクの薄切りをどっさり加えてしまったのだ。

「ウッ、臭ッ!」
女房はボクの吐く息を嗅いだとき、思わずのけぞった。
「バカだね、あんたは。これから櫻井さんに会うんでしょ。
そんな臭い息してたら、いっぺんに嫌われちゃうわよ」
たしかに言われるとおりで、ものすごいニンニク臭がボクの周りに
漂っている。

ボクは急いで洗面所に飛んでいき、ゴシゴシ歯を磨いた。
リステリンでうがいをし、口腔内を激しくクチュクチュやった。
キシリトールのガムも必死で噛んだ。
「ハーッ」
女房の前で、吐息の検査。
「ウウ……まだ相当臭うわね。会うときは数メートルは離れたほうがいいね」

で、数時間後。互いに惹かれ合ったのか(んなわけねーか)、
ボクと櫻井さんはいつの間にか顔と顔を30センチ近くまで寄せ合っていた。
まるで若い恋人同士みたいだった。ボクはすっかりニンニクのことを忘れていて、
緊張のあまり頭の中はボーッと真っ白けだった。その間、強烈なニンニク臭が
櫻井さんの鼻腔をはげしく襲っていたにちがいない。

でも心やさしき櫻井さんは、顔色ひとつ変えず、優雅に微笑むばかりだった。
たぶん櫻井さんの豪華な着物にはニンニク臭がたっぷり染み込んでしまったと
思われる(←ファブリーズをシューッとやってください)。英国女王の記念パーティが
ニンニク臭のために台無しにならないことを切に祈るばかりだった(バカ)


※追記
朝霞市の女子中学生誘拐監禁事件(『朝霞の〝桃〟がぶじ帰る』参照)以降、
小中学生の大人たちを見る目が用心深くなってきた。いきなり小学生から
「おじさん、人さらいじゃないよね?」と問い詰められるとドキリとする。
いまどき〝人さらい〟なんて言葉は古語の範疇かと思っていたけど、
妙に懐かしく嬉しくなってしまった。それにしても人格高潔なボクに向かって
「人さらい」はないよね。さらうより、若い娘にさらわれてみたいよ。



←櫻井さんは敗戦の混乱の中、
ベトナムの野戦病院で生まれる。
この本は激動の日本を生き抜いてきた
櫻井さんのご母堂を描いたもの。
いつも前向きに生きようとする母親の生き方は、
娘の櫻井さんに多大な影響を与えた。
殺人的なニンニク臭に見舞われても
だいじょうぶ。
『何があっても大丈夫』なんだものね。
櫻井さん、ほんとうにごめんなさい。

2016年4月12日火曜日

安らかに眠れるわけがないでしょ

ボクは近頃、だんだん師匠に似てきたような気がしている。
師匠とはコラムニストの故・山本夏彦である。
師匠はよく人間を2種類に分けていた。
「賢人か愚人か」「美人か不美人か」「捕まえる人か捕まる人か」
それが人間理解の近道なのだそうで、ボクも師の教えにしたがって、
人間を2種類に分けている。

ふた派に分けて人間界を眺めると、複雑そうに思えるこの世界が
実にシンプルなものとしてボクの眼に映じるようになった。
たとえば「護憲派か改憲派か」「自民党支持か民進党支持か」
「朝日新聞派か産経新聞派か」と色分けするだけでもずいぶんスッキリしてくる。

ボクは朝日や毎日、東京新聞を蛇蝎だかつのごとくきらっている。
これらは左翼反日新聞で、日本や日本人を貶めることに心血を注いでいる。
日本の新聞のはずなのに、なぜか支那や韓国の顔色ばかりうかがい、
あろうことか秋波さえ送っているのである。

となれば朝日の愛読者で、護憲派の民進党支持者とは酒を飲んでも
うまくはないだろうし、へたをするとケンカになるかもしれないので、
できるだけ近づかないほうが賢明だ、という理屈になる。彼らは敬して
遠ざけたほうが、精神衛生上すこぶるよろしいのである。

なぜ朝日や毎日がきらいなのかというと、この反日新聞は日本の悪口だけでなく
ウソばかり書くからである。何年か前に「珊瑚落書き事件」というのがあった。
朝日新聞社のカメラマンが沖縄の西表島において、自作自演で珊瑚を傷つけ、
その写真を元に説教くさい新聞記事をでっちあげた事件である。

《百年単位で育ってきたものを、瞬時に傷つけて恥じない、精神の貧しさの、
すさんだ心の日本人》などと、日本人の下劣な品性を鬼の首でも取ったように
罵倒した。しかし実際は朝日新聞記者の捏造記事だとバレてしまい、
精神が貧しく本性下劣なのは朝日新聞社そのものだった、というマヌケな
結末になってしまった。日本人を貶め、くさす目論見はみごと外れた。

また朝日は故・宮沢喜一元首相の言葉に仮託して、
《日本に来た米軍は軍紀の厳しい軍隊だった》
などと書いている。まっ赤なウソである。最初に進駐した神奈川県では、
下半身の暴走した兵隊どもが、手当たり次第に女を犯した。
1ヵ月に2000件以上の婦女暴行事件を起こす軍隊のどこに〝厳しい軍律〟が
あるというのか。ちなみにGHQは、新聞検閲で事件を起こした米兵を「大きい男」
と表記するよう命じている。支那人の犯罪を「外国人風の」とはぐらかす朝日新聞は、
たぶんこの時の検閲がトラウマになっているのだろう。

4月11日、アメリカのケリー国務長官が広島の平和記念公園を訪問、原爆慰霊碑に
献花するだけでなく原爆ドームも視察した。慰霊碑の碑文にはこうある。
安らかに眠ってください、過ちは繰返しませぬから
これじゃまるで日本人が原爆を落としたみたいだ。
東京裁判で日本無罪論を展開したインドのパール判事も、
「この碑文はおかしい」と疑問を投げかけた。原爆を落とした当事国のアメリカが
謝罪のために建てたというのなら分かる。が、悲しいかなこれは日本人の建てた碑
である。であるならば「過ちはきっと償わせますから」と刻むのが本筋だろう。

師匠・夏彦翁は言っている。
《私はアメリカ人の良心も日本人の良心も信じないものだ。アメリカの知識人は
本土決戦で死ぬべき日本人を助けてやったと、あろうことか恩にきせる。あの
無差別爆撃でどの位非戦闘員が死んだか、数えてみたことがあるか。東京裁判は
終戦早々だから、いくらか後ろめたかったのだろう、南京虐殺は初め1万、次第に
5万10万30万にしたかったのはシナ人ばかりではない。アメリカ人もしたかったのだ》

イギリスはアヘン戦争を詫びたことがないし、インドネシアを徹底搾取したオランダ
だって詫びやしない。もちろんアメリカの歴代大統領は原爆投下を決して詫びる
ことはしない。現に、ケリー国務長官は、原爆死没者慰霊碑を前にしても頭を
垂れることをしなかった。もし核廃絶を謳うオバマ大統領が広島の地を踏んでも、
たぶん詫びることはないだろう。ノーベル平和賞が聞いて呆れる。

←中央がケリー国務長官。
米国民の眼があるから、謝罪
と受け取られる〝deep bow〟
は決してやろうとしない。
「おまえたちは女子供など
無辜の民を無惨にも虐殺
したんですぞ。一片の良心が
あるのなら頭くらい下げたら
どうだい。エーッ?」





2016年4月4日月曜日

美少女戦士はフランス人

フランス人のAlexiaがパジャマ持参でやってきた。
高校生の時に日本へ留学し、ささやかながらわが家も
ホストファミリーをつとめさせてもらった。嬉しいことに、帰国してからも
日本びいきは変わらず、ボクや女房のことを「お父さん」「お母さん」と
慕ってくれる。あれからはや5年。彼女はまだ大学生(リヨン大学)ながら
すっかり大人び、いつの間にか妙齢な女性に変身していた。

わが家の娘たちと同様、AlexiaもAFSで日本へ留学した。
日本のアニメを見て育った世代で、いわゆるコスプレイヤーのひとり。
ロレーヌ地方の実家では、ひそかに美少女戦士セーラームーンの衣裳を身にまとい、
《愛と正義のセーラー服美少女戦士、セーラームーン!》
《月に代わって、お仕置きよ!》
などと、決めぜりふを叫んでいるらしい。このセリフ、自分で自分のことを
〝美少女戦士〟というところが笑えるが、大まじめにやっているAlexiaの
姿を想像するとちょっと危ないニオイがする。

その美少女戦士が今、インターンシップで来日し、日本の企業で見習いとして
働いている。インターンシップとは学生が将来のキャリアを実現するため、
一定期間、実際の企業で働くこと。この三菱系の企業では毎年40~50名の
外国人学生をインターンとして採用している。彼女は7月までの半年間、
ここでみっちり絞られることになる。

彼女は大学卒業後の身の振り方をいまだ決めかねている。
母国フランスでは若者の失業率が高く、就職もままならない。
もしヨーロッパで職を求めるなら、「ドイツに行く外ない」と彼女は言う。
それに、
「自爆テロや移民・難民の流入などで、治安は悪くなるばかり。
みんな疑心暗鬼になっている」

地下鉄などに乗っても、隣にアラブ系の人が座ったりすると、
「心臓がバクバクしてきちゃって……なんだか息苦しくなっちゃうの」
と、うかつに外出もできない状態。インターンシップで日本へ行っているほうが、
むしろ両親にとっては安心なのだという。

Alexiaは高校生の時から日本語が達者で、いまやへたな日本人より
よほど流暢に日本語をあやつる。昨日は、散歩をしたり、カフェに入ったり
したが、その間、ずっとしゃべりっぱなし。話題は主に「ISの自爆テロ」や
「アラブとヨーロッパの歴史的関係」「ヨーロッパの行く末」などについてだった。

同い年の日本の女の子とこうした話題で議論ができるかというと、
正直、「ウーン」と考えこんでしまう。もともとフランス人やイタリア人は政治好きで、
おまけに議論好きというのもあるが、彼女の知識はハンパじゃない。
コスプレをやって、美少女戦士を気どりもするが、そこはしっかり勉強もしている。
芸能ネタとファッションや旅行、グルメの話しかできない幼稚な日本のなでしこたちとは、
趣がまるでちがうのだ。

しゃべり疲れたから、2人でお買い物。近くのスーパーで夕飯用の買い出しをした。
「何が食べたい?」と訊けば、彼女は「お刺身」とか「お寿司」と答えるに決まっている。
そのことが分かっているので、お刺身売り場をそそくさと通りすぎようとすると(笑)、
「ホタルイカもおいしいよね」とか「鶏のレバーも好きィ」などと口をはさむので、
しかたなく買い物籠に放り込む。ワインのつまみがほしいのだろう。
それにしても好みがいかにも〝おやじ〟くさい。

高校留学時にはもちろん酒は出せなかったが、今は堂々と飲むことができる。
フランスでは16歳で飲酒ができるらしいが、日本ではもちろんダメ。もし飲酒が
AFS日本支部にバレたりすると、本国へ強制送還されてしまう。Alexiaは自分でも
「いけるクチ」と豪語しているくらいだから相当の酒豪で、その夜も2人でビールを
たっぷり飲んだ後、赤白のワインをそれぞれ空けてしまった。

こっちはすっかり酔っぱらってしまったが、彼女は終始シャキッとしていて、
まだまだいけそうなそぶりだった。泊まりがけで来ているので、
「今夜は腰を落ち着け、とことん飲もう」てな心もちなのだろう。
こっちも飲んべえでは人後に落ちないが、相手を少し甘く見すぎてしまったようだ。
フランス女、恐るべし。

飲んでいる間じゅうも、ずっと難しい議論がつづいた。。
彼女はもともと思想的には「中道」だったのだが、
いまは「中道よりやや右寄り」になって、いままで無視していたマリーヌ・ルペン
率いる極右政党「国民戦線」の〝反EU〟や〝移民反対〟といった政策に対しても、
少しずつ惹かれている自分がいて、驚くという。
人権国家を標榜してきたフランス。右派勢力の台頭がこの国の
何かを変えようとしている。

フランスの抱える闇は深い。
ヨーロッパはいったいどこへ向かっていくのだろう。


←カミさんとAlexia。
個人情報保護というややこしい問題
がありますので、正面からの写真は
載せられません。ニコール・キッドマン
にそっくりの可愛い女性です。