レコードプレーヤーがぶっ壊れてからは、あまり音楽を聴かなくなった。
聴いていたのはもっぱらジャズ。40年前はよく新宿の「木馬」や「DUG」、吉祥寺の
「ファンキー」や「サムタイム」に通っていた。それと、当時住んでいた江古田には
「シャイニー・ストッキング」というジャズライブの店があった。まだ売れない頃の金子晴美
などがステージで歌っていて、ボクはジンライムなんぞをチビチビやりながら、心地よく
からだを揺らしていた。
ジャズを聴き始めたのは10代の終わり頃。ジャズキチの友人に勧められた1枚のレコードが
きっかけだった。『バド・パウエルの芸術』(1947年録音のルースト盤)というもので、その中に
おさめられている「アイ・シュッド・ケア」という小品に、それこそガツンと一撃を喰らってしまった。
アップテンポの曲が多いアルバムの中で、唯一と言っていいほどスローテンポの、何と言おう、
叙情性あふれる珠玉の一曲なのである。ボクはあまりの美しさに泣けてしまった。
ピアニストから入ったジャズの世界なので、まずは名だたるピアニストを総なめにした。
その後、ビリー・ホリデイなどヴォーカリストに凝り、またまた総なめにした。
読書と同じで、濫読しているうちに自分の好みがハッキリしてきて、
たとえばビル・エヴァンス(p)が好きになったら個人全集を買い込むみたいに
エヴァンスばっかり聴く、という生活を繰り返した。一時、アート・ペッパー(as)に
惚れ込んで、高価なアルトサックスを衝動買いしてしまった。
今は押し入れの中で埃を被り、年に1回虫干しされ、磨かれる日を待っている。
「で、結局のところ、誰が一番好きなの? ベスト3を挙げてくれ」」
と問われたら、さて何と答えよう。好きなアーティストはいっぱいいて、
その誰もがボクの不毛な青春時代を彩ってくれている。彼らの音楽がなかったら、
ボクの10~20代はほとんど灰色一色に塗りつぶされていただろう。
マイ・フェイヴァリット・アーティストは、
①エリック・ドルフィー(as, fl, bclなど)
②チャーリー・ミンガス(b)
③アート・ペッパー(as)
他にもマイルス・デヴィス(tp)やコルトレーン(ts)、エヴァンスやトミー・フラナガン(p)なども
捨てがたいし、レス・ブラウンやカウント・ベイシーのビッグバンドも忘れがたい。むりやり
3人選んだが、こればっかりは甲乙つけがたい。モダンジャズの世界は実に〝豊饒の海〟
そのものなのだ。
これは余談だが、静岡市の七間町に「維也納(ういんな)」という喫茶店があった。
かつて芹沢銈介や柳宗悦らが集ったという名店で、店主の名は白沢良。その息子が
崇で、ボクはけっこう仲がよかった。維也納の2階には同じ経営の「パーソン」という
ジャズバーがあり、ボクは出張の折などに立ち寄っては崇氏とバカッ話に興じていた。
崇氏曰く。
「外国からけっこう有名なアーティストが来ては店に顔出してくれてね。即席の演奏なんかも
してくれるんだ。で、いつしか親しくなっちまう。ある時、ミンガス(レイ・ブラウンだったかも)
が機嫌悪そうにしてるわけ。どうしたの、って聞いてもそっけないの。そんな時はね、俺は
ヤツの手を引っぱってソープへ連れてっちゃう。1本抜いてやる(下品でゴメン)と俄然機嫌が
よくなっちゃうんだ、アハハハ……」
軍隊だけではない。ミュージシャンにも時には〝慰安婦〟が必要、という下世話なお話。
ボクと崇氏はそんな楽屋話を肴にしては、ゲラゲラやっていた。
ところ変わって5月19日、沼袋の「オルガンジャズ倶楽部」で、NICKさんのライブが
おこなわれた。メンバーはバンマスがNICKさん(org)、ギターがテーラー井田、
スペシャルゲストがJun Saitoこと斉藤純(ds)という顔ぶれだ。NICKさんはもともと
ピアノ弾きだが、最近はハモンドオルガンに凝ってしまい、個人教授(若い美人です)
までつけるという〝ハマり〟よう(誤解を生むような言い方するなよ)。
んなわけで、夜な夜な本腰を入れていた(誰と? クドイっつーの)。
演目は「バイバイ・ブラックバード」とか「ブルー・ボッサ」、「枯葉」、「チュニジアの夜」
といったスタンダードナンバーが主体で、さすがにニューヨークで活躍していたという斉藤氏
のドラミングは群を抜いていたが、アマチュアのテーラー井田(本業は仕立屋さんです)
の軽やかで歌心のあるギター(見た目はジム・ホールそっくり。特に頭のてっぺんが)
もよかったし、時々演奏に加わり万丈の気を吐いたテナーサックスの相沢某もよかった。
NICKさん? もちろん、最高でした。ハーレー乗ってるとイヤでも出っ腹が目立つけど、
オルガンは醜い腹を隠してくれるもんね。演奏はともかく(何がともかくだよ!)、
固まってるところが、もうサイコーでした(どーゆー意味だよ! ホントに聴いてたの?)。
←ふだんは商社マンで飲んべえ(余計だろ!)の
NICKさん。この日はプロのドラマーと共演する
ということで、かなりコチコチに固まってた(←写真)。
でも、演奏はよかったよ。ちゃんと音出てたし(当たり前だ)。
余技の域を超えてまるでyo-gi(ヨガ行者)になってたな。
さてドラムスのシンバルの位置に注目してくれ!
ヨコではなくタテにおっ立てるんだ。珍しいね。
斉藤氏独特のやり方なのだそうです。
(photo by 畠山一郎)
聴いていたのはもっぱらジャズ。40年前はよく新宿の「木馬」や「DUG」、吉祥寺の
「ファンキー」や「サムタイム」に通っていた。それと、当時住んでいた江古田には
「シャイニー・ストッキング」というジャズライブの店があった。まだ売れない頃の金子晴美
などがステージで歌っていて、ボクはジンライムなんぞをチビチビやりながら、心地よく
からだを揺らしていた。
ジャズを聴き始めたのは10代の終わり頃。ジャズキチの友人に勧められた1枚のレコードが
きっかけだった。『バド・パウエルの芸術』(1947年録音のルースト盤)というもので、その中に
おさめられている「アイ・シュッド・ケア」という小品に、それこそガツンと一撃を喰らってしまった。
アップテンポの曲が多いアルバムの中で、唯一と言っていいほどスローテンポの、何と言おう、
叙情性あふれる珠玉の一曲なのである。ボクはあまりの美しさに泣けてしまった。
ピアニストから入ったジャズの世界なので、まずは名だたるピアニストを総なめにした。
その後、ビリー・ホリデイなどヴォーカリストに凝り、またまた総なめにした。
読書と同じで、濫読しているうちに自分の好みがハッキリしてきて、
たとえばビル・エヴァンス(p)が好きになったら個人全集を買い込むみたいに
エヴァンスばっかり聴く、という生活を繰り返した。一時、アート・ペッパー(as)に
惚れ込んで、高価なアルトサックスを衝動買いしてしまった。
今は押し入れの中で埃を被り、年に1回虫干しされ、磨かれる日を待っている。
「で、結局のところ、誰が一番好きなの? ベスト3を挙げてくれ」」
と問われたら、さて何と答えよう。好きなアーティストはいっぱいいて、
その誰もがボクの不毛な青春時代を彩ってくれている。彼らの音楽がなかったら、
ボクの10~20代はほとんど灰色一色に塗りつぶされていただろう。
マイ・フェイヴァリット・アーティストは、
①エリック・ドルフィー(as, fl, bclなど)
②チャーリー・ミンガス(b)
③アート・ペッパー(as)
他にもマイルス・デヴィス(tp)やコルトレーン(ts)、エヴァンスやトミー・フラナガン(p)なども
捨てがたいし、レス・ブラウンやカウント・ベイシーのビッグバンドも忘れがたい。むりやり
3人選んだが、こればっかりは甲乙つけがたい。モダンジャズの世界は実に〝豊饒の海〟
そのものなのだ。
これは余談だが、静岡市の七間町に「維也納(ういんな)」という喫茶店があった。
かつて芹沢銈介や柳宗悦らが集ったという名店で、店主の名は白沢良。その息子が
崇で、ボクはけっこう仲がよかった。維也納の2階には同じ経営の「パーソン」という
ジャズバーがあり、ボクは出張の折などに立ち寄っては崇氏とバカッ話に興じていた。
崇氏曰く。
「外国からけっこう有名なアーティストが来ては店に顔出してくれてね。即席の演奏なんかも
してくれるんだ。で、いつしか親しくなっちまう。ある時、ミンガス(レイ・ブラウンだったかも)
が機嫌悪そうにしてるわけ。どうしたの、って聞いてもそっけないの。そんな時はね、俺は
ヤツの手を引っぱってソープへ連れてっちゃう。1本抜いてやる(下品でゴメン)と俄然機嫌が
よくなっちゃうんだ、アハハハ……」
軍隊だけではない。ミュージシャンにも時には〝慰安婦〟が必要、という下世話なお話。
ボクと崇氏はそんな楽屋話を肴にしては、ゲラゲラやっていた。
ところ変わって5月19日、沼袋の「オルガンジャズ倶楽部」で、NICKさんのライブが
おこなわれた。メンバーはバンマスがNICKさん(org)、ギターがテーラー井田、
スペシャルゲストがJun Saitoこと斉藤純(ds)という顔ぶれだ。NICKさんはもともと
ピアノ弾きだが、最近はハモンドオルガンに凝ってしまい、個人教授(若い美人です)
までつけるという〝ハマり〟よう(誤解を生むような言い方するなよ)。
んなわけで、夜な夜な本腰を入れていた(誰と? クドイっつーの)。
演目は「バイバイ・ブラックバード」とか「ブルー・ボッサ」、「枯葉」、「チュニジアの夜」
といったスタンダードナンバーが主体で、さすがにニューヨークで活躍していたという斉藤氏
のドラミングは群を抜いていたが、アマチュアのテーラー井田(本業は仕立屋さんです)
の軽やかで歌心のあるギター(見た目はジム・ホールそっくり。特に頭のてっぺんが)
もよかったし、時々演奏に加わり万丈の気を吐いたテナーサックスの相沢某もよかった。
NICKさん? もちろん、最高でした。ハーレー乗ってるとイヤでも出っ腹が目立つけど、
オルガンは醜い腹を隠してくれるもんね。演奏はともかく(何がともかくだよ!)、
固まってるところが、もうサイコーでした(どーゆー意味だよ! ホントに聴いてたの?)。
←ふだんは商社マンで飲んべえ(余計だろ!)の
NICKさん。この日はプロのドラマーと共演する
ということで、かなりコチコチに固まってた(←写真)。
でも、演奏はよかったよ。ちゃんと音出てたし(当たり前だ)。
余技の域を超えてまるでyo-gi(ヨガ行者)になってたな。
さてドラムスのシンバルの位置に注目してくれ!
ヨコではなくタテにおっ立てるんだ。珍しいね。
斉藤氏独特のやり方なのだそうです。
(photo by 畠山一郎)