2010年1月30日土曜日

祈る人

ごく最近、マレーシア人の宇宙飛行士が宇宙に行った場合、
いつ礼拝したらいいのか、という問題が持ち上がったという。

イスラムの教えでは、1日5回の礼拝が義務づけられている。
日の出前、正午、午後、日没直後、夜半の5回だ。
ただし病気の時や旅行中は3回でもいい、とされている。

人工衛星は2時間ほどで地球を1周してしまうため、
日の出前、日の入り後なんて規定だと、祈っているうちに
1日の大半が過ぎてしまう。

似たような話がサン=テグジュペリの『星の王子さま』に見られる。
小さな星にlamplighterが住んでいて、日が昇ると街灯の灯を消し、
日が沈むと街灯に灯を点す。ただしこの星は1分間に1回自転するので、
点けたり消したりで、1日があっという間に過ぎてしまう。
この作品の中に出てくる多くの畸人変人の中では、
僕の一番のお気に入りがこの健気なlamplighterだ。

さてイスラム教徒の宇宙礼拝に話を戻すと、
イスラムの法学者たちはその後、緊急会議を開いたという。
で、結論からいうと、マレーシア人なんだから、
マレーシアの標準時刻に合わせて礼拝すればいい、
ということになった。

そういえば司馬遼太郎がどこかにこんなことを書いていた。
ある時、司馬の友人がアラブ人の操縦する小型飛行機に乗っていたら、
操縦士がいきなり床に這いつくばり、お祈りを始めたというのだ。
もちろん自動操縦に切り替えているのだろうが、礼拝が終わるまで
その友人は生きた心地がしなかったという。

イスラムでは「コーラン」が第一法源で、コーランに反する法律は
認められない。もちろんこれは政教分離の「世俗主義」ではなく「原理主義」を
信じる人たちの考えで、一般論としては言えない。
イスラム教徒にもいろいろあり、信仰度合いに濃淡があるからだ。

ただ彼らにしてみれば、
飛行中だろうが用便中だろうが、祈りの時刻が来れば、
すべてを中断してそのことに集中すべきなのだろう。

何年か前、東京ディズニーランドで礼拝中の男性を見たことがある。
彼は人目を避け、死角になるような場所で熱心に祈っていた。
その姿はとても敬虔なものだった。

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