2010年1月7日木曜日

ちあきなおみの純愛

歌手のちあきなおみが、静かなブームなのだという。
現に毎年のようにベスト盤のCDがリリースされ、
コンスタントに数十万枚も売り上げている。

たしか長らく休業中のはずで、テレビにも雑誌にも、
公の場には一切姿を見せていない、と聞いてるけど、
どうなっちゃってるのかしら。

ちあきなおみは宍戸錠の実弟・郷鍈治と結婚した。
郷は苦み走ったこわもての俳優で、
ヤクザとか凶悪犯といった悪役ばかり演じていた。

その郷が1992年に肺ガンで亡くなってしまう。
享年55。ちあきが44歳の時だった。
これは有名な話だが、郷が荼毘(だび)に付される時、
妻のちあきは柩(ひつぎ)にしがみつき、
「私も一緒に焼いて!」と号泣したという。
2人は人も羨むおしどり夫婦だった。

夫に先立たれたちあきは、あまりのショックのためか、
以後、歌手活動を休止してしまう。そして18年。
ちあきは現在63歳になっているはずだ。

どうしてこんな話を書くのかというと、
この相思相愛の2人に取材したことがあるからだ。

郷は80年代に俳優業から引退し、ちあきのマネジャーに
転身する。また生活の基盤作りにと喫茶店経営を始める。
「COREDO」という店で、広尾にあった。

このお店、内装などがしゃれていたもので、
取材を申し込んだら、二つ返事でOKされた。
店に出向くと郷とちあきが待っていた。

どんな話をしたかまったく記憶にない。
が、郷の後ろに慎ましく控えていた寡黙な彼女の姿だけは
はっきり憶えている。

歌がうまい(日本ではこのことだけで賞賛される)、
という印象以外、彼女への関心やシンパシーは皆無なのだが、
芸能界におさらばして18年、
というのが芸能人嫌いの僕には好感される。

話変わって、インドには「サティ」という悲しい風習がある。
死んだ夫が火葬に付されると、妻も一緒に、
燃えさかる火の中に飛び込み焚死する、というものだ。
この凄惨な習わしは献身的な行為と称えられ、
家族や一族の名誉とされた。

しかし、実態は献身的な行為でも何でもなく、
周囲からの無言の圧力で、むりやり飛び込まされる、
という不条理極まりないものだ。インドに根強くある男尊女卑の
考え方が形を変えて噴きだしたものだろう。
純愛から発したであろうちあきの「私も一緒に焼いて!」
とは、似て非なるものなのである。

「私も一緒に焼いて!」

ちあきの潔い引退劇と相まって、
この妙に生々しい言葉のリフレインが、
耳の奥でいつまでも響き渡っている。




←夫との〝純愛〟を貫くちあきなおみ。
テレビなどではおどけた仕草を見せること
があったが、ほんとうは華やかな世界がきらいな、
物静かな女性だった

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