モツとかホルモンとか、いわゆる内臓類が好きで、精肉売場の片隅にそれを見つけると、
つい手がのびてしまう。酒と醤油と砂糖で甘辛く炒め煮し、それをアテに冷やしたビールを
ガンガン飲む。ああ、生きててよかった、としみじみ思う瞬間である。
モツは噛むほどに陰翳豊かな表情を見せてくれる最良の肴で、ものによっては高雅な
オードヴルの趣きさえ感じさせる。『東京煮込み横丁評判記』や『悶々ホルモン』などは
ボクの愛読書で、ホルモン系の店が多い京成押上線沿線(立石に多い)や赤羽、北千住
にはしばしば足を運び、日々の鬱屈を溶かし込んだようなモツ煮に舌鼓を打つ。
貧乏学生だった頃、ボクは新宿駅西口線路沿いの思い出横丁、通称〝ション横〟
によく通った。慶応のお坊ちゃま学生たちは身のほど知らずにも銀座なんかに
繰り出していたようだが、同じ塾生でも慢性金欠病のボクらボンビー学生は
早稲田のムサい学生たちと肩を並べ、ション横で酎ハイをあおっていたのだ。
ガツだのハツだのホーデン(睾丸)だのを頬ばっていると、自分が獰猛な肉食獣に
なったような気がしたものである。
昔はモツやホルモンを悪食(あくじき)呼ばわりするものがあった。しかしさすがに今は違う。
内臓類はおいしいと、その美質が広く認知され、ホルモン系の店はどこも大盛況だ。
血圧と尿酸値が高くなおかつ高脂血症のボクは、ホルモンや魚卵の摂取を医者から
きびしく制限されている。が、
モツ無くて 何が浮世の 余命かな
などと考えるひねくれ者だから、医者にすればまことに扱いにくい患者だろう。
下町のやきとんやモツ煮の店に行くと、
「えーっと、とりあえずホッピーの〝三冷〟にチレ刺とニコタマをもらおうか」
などという注文が飛びかっている。
「〝三冷〟っていったい何?」
初心者は首をかしげるが、「ホッピーとジョッキとキンミヤの三点を凍らせたもの」
というのが正解だ。氷入りだと焼酎の味が徐々に薄まってしまうが、三冷ならいつまでも
濃度が持続する。〝三冷〟はホッピー党の間では必須の心得なのである。
「三冷は分かったけど、〝キンミヤ〟って何なの?」
お上品な山の手の飲み助には馴染みが薄いのかもしれないが、
キンミヤとはホッピーとの相性がいい下町酒場御用達ともいうべき焼酎のことで、
このキンミヤ焼酎を知らないと下町酒場では〝もぐり〟と見なされ軽蔑される。
よく酒品がいいとか悪いとかいう。
酒の席では人の悪口や仕事上の鬱憤を話題にすべきではない、などとしたり顔
でいうものもいる。しかしボクは思うのだ。今までどれだけ酒席に連なったか
憶えていないが、場が盛りあがる一番の話柄(わへい)といえば無能な上司と
出来損ないの後輩たちの悪口を肴にすることに決まっていた。
悪口にも言い様がある。ユーモアの衣に包んだ悪口はなかなか洒落ていて
それほど捨てたものではない。要はお上品に知的諧謔をまじえてやればいい。
昨日も恒例のキャッチボールをしたあと、公園のベンチで悪友たちと飲んだ。
話題は団地内に跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する〝俗物たち〟に対する
お上品な?悪口だった。酒がすこぶる旨かったのは言うまでもない。
←このざっかけないやきとんを頬ばり
ウメ酎をおちょぼ口ですする、という
のが人生最高の快事なのである
つい手がのびてしまう。酒と醤油と砂糖で甘辛く炒め煮し、それをアテに冷やしたビールを
ガンガン飲む。ああ、生きててよかった、としみじみ思う瞬間である。
モツは噛むほどに陰翳豊かな表情を見せてくれる最良の肴で、ものによっては高雅な
オードヴルの趣きさえ感じさせる。『東京煮込み横丁評判記』や『悶々ホルモン』などは
ボクの愛読書で、ホルモン系の店が多い京成押上線沿線(立石に多い)や赤羽、北千住
にはしばしば足を運び、日々の鬱屈を溶かし込んだようなモツ煮に舌鼓を打つ。
貧乏学生だった頃、ボクは新宿駅西口線路沿いの思い出横丁、通称〝ション横〟
によく通った。慶応のお坊ちゃま学生たちは身のほど知らずにも銀座なんかに
繰り出していたようだが、同じ塾生でも慢性金欠病のボクらボンビー学生は
早稲田のムサい学生たちと肩を並べ、ション横で酎ハイをあおっていたのだ。
ガツだのハツだのホーデン(睾丸)だのを頬ばっていると、自分が獰猛な肉食獣に
なったような気がしたものである。
昔はモツやホルモンを悪食(あくじき)呼ばわりするものがあった。しかしさすがに今は違う。
内臓類はおいしいと、その美質が広く認知され、ホルモン系の店はどこも大盛況だ。
血圧と尿酸値が高くなおかつ高脂血症のボクは、ホルモンや魚卵の摂取を医者から
きびしく制限されている。が、
モツ無くて 何が浮世の 余命かな
などと考えるひねくれ者だから、医者にすればまことに扱いにくい患者だろう。
下町のやきとんやモツ煮の店に行くと、
「えーっと、とりあえずホッピーの〝三冷〟にチレ刺とニコタマをもらおうか」
などという注文が飛びかっている。
「〝三冷〟っていったい何?」
初心者は首をかしげるが、「ホッピーとジョッキとキンミヤの三点を凍らせたもの」
というのが正解だ。氷入りだと焼酎の味が徐々に薄まってしまうが、三冷ならいつまでも
濃度が持続する。〝三冷〟はホッピー党の間では必須の心得なのである。
「三冷は分かったけど、〝キンミヤ〟って何なの?」
お上品な山の手の飲み助には馴染みが薄いのかもしれないが、
キンミヤとはホッピーとの相性がいい下町酒場御用達ともいうべき焼酎のことで、
このキンミヤ焼酎を知らないと下町酒場では〝もぐり〟と見なされ軽蔑される。
よく酒品がいいとか悪いとかいう。
酒の席では人の悪口や仕事上の鬱憤を話題にすべきではない、などとしたり顔
でいうものもいる。しかしボクは思うのだ。今までどれだけ酒席に連なったか
憶えていないが、場が盛りあがる一番の話柄(わへい)といえば無能な上司と
出来損ないの後輩たちの悪口を肴にすることに決まっていた。
悪口にも言い様がある。ユーモアの衣に包んだ悪口はなかなか洒落ていて
それほど捨てたものではない。要はお上品に知的諧謔をまじえてやればいい。
昨日も恒例のキャッチボールをしたあと、公園のベンチで悪友たちと飲んだ。
話題は団地内に跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する〝俗物たち〟に対する
お上品な?悪口だった。酒がすこぶる旨かったのは言うまでもない。
←このざっかけないやきとんを頬ばり
ウメ酎をおちょぼ口ですする、という
のが人生最高の快事なのである
4 件のコメント:
嶋中労さま
こんにちは!
悪口大好き、ホルモン大好き、梅割り大好きの田舎者です。
東松山に生まれ育った者ですから、労さま、その通りだと
うなずきながら読み進みました。
個人的には唐辛子、大蒜、生姜の利いたピリ辛なタレにつけて
食べるホルモン類が幸せを感じさせてくれます。
ホルモン食って飲んで暴れたい田舎者でした。
田舎者様
こんにちは。
東松山はホルモン焼きの〝聖地〟だものね。田舎者さんもホルモン食べて〝悶々〟
として生きてきたクチでしょう(笑)。
ボクもピリ辛なタレは大好きで、
「あなたは辛けりゃ何だっていいのよね」
などと女房にバカにされてます。
ホルモン喰って暴れたい、とは穏やかでは
ありませんが、だいぶ「?」が溜まって
いそうですね。大酒喰らってみんな
出しちゃいなさい。
やきとんは最高に旨いけど、豚の喰えない
イスラム教徒にはその感動を伝えられない。
何でも見境なく食べちゃう日本人に生まれて
ほんとうによかった。
しまふくろうさま、こんにちは。(*^^*)
ただいまおひとり様を堪能中の木蘭でございます。
考えてみるに、
好きなものを食べて健康な人っていないですね。
タラコ、イクラ、カレイの卵や数の子などの魚卵。
塩やお醤油のきいた揚げせん類。
私の好きな物も~体に悪いものばかり。(笑)
あまり口にする機会もありませんが、
私もいつか自分の好きな物を我慢せねばならない時がやってくるのかなと思うと憂鬱です。(T_T)/~~~
ホルモンの好きな女性たちをホルモンヌというそうですね。
私はどうもお肉系は苦手で。(^_^;)
今はお坊さんでも肉食妻帯は当たり前の時代。
うちでも住職の奥様が家事一切をしきっています。お肉料理になることも多いのです。
私がお肉系が苦手なのを知っていますが「栄養が偏ると病気になりやすい。少しでもいいから食べて下さい」と。
食べるのは好みませんが、その気持ちがとても嬉しいので頂いています。
少しでも長く元気でいるよう、
精神的にいい好きな物と、身体的にいい嫌いな物を食べて過ごしましょう。(笑)
木蘭様
こんにちは。
いま、病院から戻ったところです。
降圧剤を取りに行ったのです。
血圧を測ったら、今日は異常に高かった。
このところレバーとかタラコとかコレステロール値の高そうなものばかり食べているせい
でしょうか。それに休肝日もないし……。
たぶんムダでしょうが、しばらくホルモン断ちします(笑)。
山本夏彦がこんなことを言ってます。
《もと美人に二種ある。すぐれて顔立ちがいいのと、水分(ホルモン)だけでぴかぴか
輝いているのとである……》
つづけて、
《顔立ちのいいほうは、いくら年をとってもその痕跡があるから昔はさぞかしと言って
くれる人がある。水分だけで輝いている美人は、その水分が蒸発してしまえばあとかたもなく美人でなくなる》
たぶんボクの口の悪さは師匠譲りなんだな、
と改めて確信しました(笑)。
さて「肉派」か「魚派」かですが、
ボクは雑食系ですから、どっちも好きです。
魚はサバやアジ、イワシといった青魚が好き
で、高級魚は苦手です(というより、あまり食べたことがない)。
肉もスジ張った安い肉が好きで、
松阪牛や神戸牛といった高級なものは
舌になじみません。根っからの貧乏人なんです。
こんな人間がヨーロッパの星付きレストランを何十店も取材し、もっともらしい記事を書いていたんですから、ニセのベートーヴェンとか白い割烹着のおネエちゃんと同類です。
お互い、元気で長生きしたいですね。
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