2014年5月16日金曜日

つむじ曲がりのダウンシフター

ダウンシフター(減速生活者)という言葉が流行っている。
shiftをdownさせる――つまり生活のペースを「低速ギア」に切り替え、
多少収入が落ちても、シンプルで心豊かに生きていく――。
そんな人間らしい生き方を選択した人たちを「ダウンシフターdownshifter」と呼ぶらしい。

ボクなんかサラリーマンを辞めてから、かれこれ30年近くギアを落としっぱなしで、
根っからのダウンシフターにちがいないが、こればかりは結果的に「低速ギア」を
余儀なくされているだけの話で、意図的にシフトをダウンさせてきたわけではない。

ほんとうはギアをトップに入れ、「そこのけ、そこのけ、俺様が通る」とばかりに、
低速ギアの連中を蹴散らし、彼らボンビー族を尻目に東京湾に豪華ヨットを浮かべ、
きれいなネエちゃんをはべらせて、酒池肉林の栄華を満喫したいのだけれど、
現実は逆で、そんな才覚など微塵もなく、思いっきり蹴散らされ辱められ生きている。

月刊誌の編集をやっている時は地獄だった。そこには〝人間的〟な生活などなかった。
そもそも人間ですらなかった。毎夜、帰りは午前様で、〆切前後は会社に寝泊まりする
ことが当たり前だった。休日はただひたすら寝るだけ。起きれば起きたで、
家に持ち帰った原稿書きの仕事が待っていた。1年365日、ずっと仕事だった。
女性編集者などは、もちろんデートする時間もなく、婚期を逃すものが多かった。

会社を辞めフリーになってからも、そんな無間地獄のような生活は変わらなかった。
ダボハゼみたいに、どんな仕事でも食らいつき、思わず赤面してしまうようなエッチな
原稿もせっせと書いた。贅沢は言ってられない。みんな生活のため、家族を養うためである。

そして30年。ギアは低速に入ったままで、高速ギアはすでに錆びついてしまっている。
80年代のバブル期に、ちょっとだけ高速ギアにシフトされたことがあったが、
しょせん泡沫(うたかた)のごとしで、「虚栄」「虚飾」という二文字だけが頭に浮かぶ

元同僚たちは、当時手帳の予定欄をみな真っ黒にしていた。
雑誌記者なのだから当然といえば当然のことだが、彼らは嘆くどころか、
むしろその繁忙さを誇るようなところがあった。「おれは仕事ができるんだぞ」
と、内心誇示したかったのだろう。会社に飼い馴らされ、忙しさに鈍感になると、
仕事人間であることがついには生きがいになってしまう。

いま、そんな風潮が変わりはじめている。育児に精を出す「イクメン」が出てきたり、
専業主夫願望の男たちが堂々と名乗りをあげたりしている。
「脱成長&脱消費」社会の中で、新しい生きがいを見つけ出そうとしている
若者たちである。つまりスローライフの延長線上に彼らはいる。

特徴的なのは、この「減速」をよしとする生き方が、競争社会からの「敗北」でも
「退行」でもないということだ。ある人はこの現象を「不活性化」などではなく
「活性化」なのだと説いていたが、ボクもその意見に賛成だ。

幸せな生き方とは何か――ボクはそのことをずっと考えてきたし今も考えている。
負け惜しみでいうわけではないが、「ローコストで生きるにはどうしたらいいか」
をひたすら考えてきた。女房や娘たちのことはいざ知らず、ボクに限っては
貯金と呼べるものなどほとんどない。

「稼ぎに追いつく貧乏なし」という諺がある。マジメに働いていれば貧乏になることはない、
とする説教くさい戒めだが、マジメに働いていても貧乏になるケースはいっぱいある。
むしろそのほうが一般的といっていい。

ポジティブな「ダウンシフター」があれば、ネガティブな「ダウンシフター」もある。
ボクは明らかに後者で、いつの日かシフトを上げ、「きれいなネエちゃんと……」
などとよからぬことばかり夢見ている。

何度も叫んでしまうが、この際だ、また叫んでしまおう。
世の中に、金と女は仇なり。どうか仇にめぐり会いたし!


←ボクは高速ギアでも
自由に生きられるんだけどな……
著者の店「たまにはTSUKIでも眺めましょ」
略称「たまつき」は池袋西口にある。
ボクのテリトリーだから、今度のぞいてみること
にする。

ピースボートとか反原発的な発言が
ちらちら。ボクとは思想信条が合わないかも











※追記
右上の池で泳いでいた金魚4匹が突然家出してしまいました。
エサをやらずほったらかしておいたら、人間不信に陥ったのか、
人生を悲観してすたこらさっさと逃げ出してしまったのです。
そんなわけで、ちょっぴり淋しいですが、家出しないものに替えました。
月と地球のライブ映像です。金魚が詫びを入れて戻ってきたら、
厳しく叱責してまた復活させます。

7 件のコメント:

迂塞齋 さんのコメント...

多分40歳くらいまで、ローギアのままアクセルをベタ踏みして走り続けました。だから大した成果を出せませんでした。その後、世捨て人として、惰性で下り坂を走り続けています。既に底なし沼に落ちてそのまま沈み続けているのに気がつかず、人並み外れた肺活量のお蔭で未だに生きている・・というのが現状のようです。

そんな人生を送ってきた愚生には、「シフトダウン」がわかりません。もしかしたらオートマ限定免許なのかしら?・・・と不安になります。

ただ、そもそも、どんなギアにせよ、ベタ踏みで走った経験の無いヤツ(団塊世代とそのジュニア世代に多い)に限って「オレの若い頃は・・・」「近頃の若い者は・・・」が大好きですね。

ありがたいことに、下り坂はアクセルを全く踏まなくても走り続けてくれるので、その惰性に自然体で生きていくのは楽しいものです。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

迂塞齋様

ダウンシフトな生活をしていたら、
飼っていた金魚にも見限られてしまいました。ボクの人生はトホホです(笑)。

さてローギアのままアクセルをベタ踏み
して生きてきたという貴兄ですが、さぞ
エンジンが悲鳴を上げていることでしょうね。

すでに世捨て人とおっしゃっていますが、
貴兄に髪がふさふさしていた時期があったように、だれにでも絶頂期という時期が訪れます。ただし、そのことにみな気づかない。

ずいぶんあとになって、
「ああ、あの時がその絶頂期だったんだな……」と、思い当たるのです。
その時期はごくごく短い。

ボクにはその絶頂期が見当たりません。
おそらく数日後、あるいは数年後に訪れるのだと確信しています。

よく作家などに、
「あなたの最高傑作は?」
と訊くと、
「次に書く作品です」
と答えるものがありますが、
あの心理と少し似通っています。

ボクも人生を半分降りてしまっていますが、
なにも捨てバチになって生きているわけではない。

今日より明日、明日より明後日のほうが
「All is well」という気がするのです。

若い娘にはもてなくなりましたが、
おばさんやおばあさんにはモテモテです。

All is well that ends well
でしょうかね(笑)。


田舎者 さんのコメント...

嶋中労さま

こんにちは!
マジメに働いていると想い込んでいる田舎者です。

農業を始めてから前職以上に人間関係に振り回されています。
家族、基本的に365日、24時間何時も一緒のように感じる農家、
地域の古くからの人間関係、そして、直売所での百姓根性の
人間関係、そんなこんなの日頃の行いが低速生活になったのではと
分析したところです。

それではこの辺で野良に行かせていただきます。

何を書きたいのか解らなくなった50男でした。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

田舎者様
おはようございます。

田舎者さんはフレンチの世界からの転業ですからね。どんな思いで商売替えしたのかは
知りませんが、ボクなどが窺い知れない事情
があったものと拝察されます。

人間関係だって尋常一様ではないと思います。何かにつけ勝手がちがうと戸惑うことも
あるでしょう。が、何らかの縁で飛び込んだ
世界でしょうから、まずは精一杯頑張ってほしいと思います。

恵みの雨も降りました。
ギアシフトが低速であれ高速であれ、
無理せず、自分に合ったペースで
歩んでいってください。

ポコ・ア・ポコとはイタリア語で「一歩ずつ」の意味です。また清水寺の貫主だった
大西良慶師は「ゆっくりしいや」という言葉を残しています。

1回こっきりの人生、
カンバスにどんな絵を描くかは
あなた次第です。
お互い、野辺の草花でも愛でながら、
ゆっくり一歩ずつ歩いていきましょう

木蘭 さんのコメント...

しまふくろうさま、こんにちは。(*^^*)

生まれながらにして牛歩を続けている木蘭でございます。

・・・丑年なものですから。(笑)

ここのところ作業続きで、
昨日など終わった時間が夜の九時近く。
慣れないハンマードリルなんぞ使ってしまったので、筋肉痛がひどく、
腰がつりそうなくらいでした。

膝のまわりはあざだらけ。

でもやっと落ち着いて今日は比較的ゆるりとできています。

今こうしてキーボードを叩いている手には、
ところどころにペンキがついていますが。(笑)


明日は久しぶりに檀家さんたちとバスでおでかけ。

池上本門寺と泉岳寺に行って参ります。
で、帰りはスカイツリー。(笑)

毎年この季節になると青年の方々がこうした企画を練ってくれるのです。

私はおでかけできるだけで充分嬉しい。(*^^*)


また来月は、
長年の夢だったお伊勢に行って参ります。

一泊の一人旅。
気楽です。(笑)


行きたいところは山ほどありますが、
なかなか自分の思うようにおでかけすることはできません。

ですからほんの少しのことが嬉しいし、
とても幸せに思えます。

走り続けるという生き方は経験がありませんが、
私にとって、今が絶頂期なのかもしれませんね。(*^^*)


お土産は何がよろしいですか。(笑)

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

木蘭様

こんにちは。お久しぶりです。

池上本門寺とスカイツリーはまだ行ったことがありません。

木蘭さんに折伏されたわけではありませんが、「宮澤賢治がなぜ浄土真宗から日蓮宗に改宗したのか」などというところが心にひっかかっておりまして、日蓮関連の本をいま
ちょこちょこ読んでおります。

そのうち機会がありましたら、本門寺にも
詣でてみようかと考えています。

伊勢神宮は出張のついでにお参りしたことがあります。一人旅とはうらやましい。ボクも
強力としてお供したいくらいですが、なにぶん膝がいかれているもので、足手まといになるのは必定。山賊や追い剥ぎなどには、くれぐれも気をつけてくださいまし。



土産物などのお気遣いは無用に願います。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

田舎者様

ポコ・ア・ポコをイタリア語と言いましたが、スペイン語のまちがいでした。
「少しずつ」「ちょっとずつ」の意です。
うっかりしてしまい、失礼しました。