2012年6月26日火曜日

ねんねの巣立ち

次女のN子が今月いっぱいで家を出ていく。
プチ家出ではない、独立だ。
勤め先が横浜のそのまた先で、残業も多い部署なので、
思いきって会社の寮に入ることにしたのだ。

先日、N子は女房と一緒に鍋釜や電化製品など生活用品一式を
買い揃えるべく買い物に出かけた。本人は初の独り住まいということで、
気分が高揚しているのか、終始ご機嫌だったようだ。

そういえば自分が独立したのも大学卒業してすぐだから、同じようなものか。
東京の一人暮らしが新鮮で楽しくて、毎日のようにハメを外していたっけ。
月に一、二度、週末になると川越の実家から〝洗濯オバサン(母親)〟が上京し、
掃除洗濯夕餉の支度と大車輪の活躍で、悠々半日過ごしていった。
「……ったくまあ、なんて臭いだろうね、この部屋は」
などとブツブツ云いながらも、けっこう楽しそうだった。
おそらく息子の汗臭い猿股の匂いなんぞを嗅ぎながら、
錆びつき萎れてしまった母性に活を入れ直していたのだろう。

いつまでも〝ねんね〟と思っていても、巣立つ日は突然やってくる。
親から見れば、子は幼き頃と変わらぬイメージのままで、
「近頃は、生意気なことを云うようになったな」
などと感心しつつも、頭の中には幼稚園児だった頃の無邪気な姿が浮かんでいる。
(もう一度、あの頃に戻りたいな……)
ついおセンチな気分にもなってしまう。

寮の部屋でひとり夕食を作り、ひとり淋しく食事をする。
そんな時、
「やっぱお父さんの作ってくれたご飯は最高だったな。
今、そのことがようやくわかったよ……」
娘はしみじみ父の偉大さを思い知り、さめざめと泣くのだ。

家族の一員が欠けるというのは淋しいものだ。女房も表情には出さぬが、
しばらくは言いしれぬ喪失感に苛まれることだろう。

で、しばらくすると、わけのわからぬ男を連れてきて、
「お父さん、お母さん、わたしたち……結婚します」
などと勝手なことを言い出し、一巻の終わりとなるのだ。

近く、副都心線と東横線は相互に乗り入れ一本に結ばれる。
わが街和光市から横浜まで乗り換えなしで行けるようになる。
和光市から渋谷まで急行で20分だから、横浜までは1時間前後か。
通えぬ距離ではないのだが、出ていく時は出ていってしまう。

親なんて稼業は、むなしい。
でも、思えば十分楽しませてもらった。
ねんねの娘よ、まずはシャカリキになって働け。
「自分探し」だの「生きがい」だのと、余計なことは考えず、
しばらくは文句を云わずに働け。先輩の云うことをよく聞いて働け。
ストイックになって働け。
そこから視えてくるものがきっとある。















6 件のコメント:

帰山人 さんのコメント...

労師、きっとあーなるこーなるなどと、
それもご自身の寂寥を子の想いに代弁させて語る…
あ~ヤダヤダ、そこらへんに転がってるオヤジじゃん!
でもオレもそうなるのかなぁ…
我が家の子2人は、社会的には巣立っていませんが、
勉学の身で出ていきました。
今春からカミさんと2人暮らしに戻っちゃって、
カミさんも表情には出しませんが、
互いに言いしれぬ「恐怖感」に苛まれています。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

帰山人様

そこらへんに転がってる
オヤジでわるかったね(笑)。

あれはね、ちょっと誇張して書いただけ。
出ようが出まいが、
別に何とも思ってやいませんよ。

それより夫婦二人きりになった時の
「恐怖感」というのがリアルだな。

むしろそっちのほうが興味津々だ。

娘さんに手ずから焙いたコーヒーを
大量に送ったと、ツイッターでぶつぶつ
呟いてたけど、コーヒーより銭送ったほうが
喜ばれるんじゃないの?

ま、しばらくは夫婦水入らずで、
せいぜい恐怖を味わってくんなまし。

なごり雪 さんのコメント...

嶋中 労さま

文章から察する父親の心情に、
ついつい貰い泣きをしてしまいました。

ところでこのシチ面倒臭い労親父、
近い将来いったいどちらが面倒をみるんダロ。

哀れで貰い泣き。

Nick's Bar さんのコメント...

ROUさん、
こんにちは。

ROUさんがわずかばかりの感傷に浸ろうとしったこっちゃありませんが、N子ちゃんが近所にいなくなるのは寂しい限りであります。

ま、そんなもんなんでしょうけど。

頑張れ、N子ちゃん!

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

なごり雪様

ダルヴィッシュが10勝目。
イェーイ! いつも初回に点を取られ、
こっちはイライラさせられるんだけど、
中盤あたりから持ちなおす、というのが
定番コース。三振も10個取ったし、
ま、めでたしめでたしってとこか。

で、何?

ボクがくたばり損なった時、
どっちの娘がシモの世話をするかってこと?

心配してもらってアリガトね。
持つべきものはお友達だね。

でも心配要らない。
即身成仏するように訓練してるから。

それよりそっちの溺愛娘はどうなの?
よく2人で仲良く出歩いてるようだけど、
足腰立たなくなったら面倒見てくれそう?

お互い、もうそう長くはないんだから、
そろそろ死に支度をしないとね。

願はくは 花のもとにて春死なむ……
豆助と一緒にどう?

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

NICK様

温かいお言葉をアリガト。

たしかに、こんなもんなんだろうな。
ベランダ越しに聞こえてくる
カラスの7つの子たちだって、
今まさに巣立ち時で、
ほどなく親元を去っていくんだもんね。

N子は今日は〝赴任休暇〟とやらでお休み。
フニン手当というのだってたっぷりもらえる。
なに? 不妊手当?
最初はドキリとしたけど、
〝赴任手当〟なんだね。
寄らば大樹の陰ってか?
ボクみたいな零細稼業からすると
夢みたいな話だよ。

N子のおしめまで換えてもらったNICK様。
大変お世話になりました。
奥方様にもよろしくお伝えください。