チュニジアに端を発したジャスミン革命は、燎原の火のようにアラブ諸国へ燃え移り、
チュニジア、リビア、エジプト、イエメンと、各国の長期独裁政権を倒してきた。
そして今、シリアのアサド政権が内戦状態に陥り、その命脈が尽きようとしている。
アサド政権は軍隊を使い、女といわず子供といわず、市民を虐殺していると報道されている。
アメリカと国連はこれを強く非難するが、中国・ロシアは「アメリカこそ反政府側に武器を援助
しているじゃないか」と反論、アサド政権に攻撃用ヘリなどを貸与しアメリカと対立している。
日本のメディアの報道では米ソ冷戦の再来かという論調だが、事はそれほど単純では
ない。イスラム教といっても一枚岩ではなく、よく知られているのがシーア派とスンニ派の
2大宗派の対立だ。といってもシーア派は少数派で、スンニ派がイスラム教徒全体
(15億7000万人)の約9割を占めている。
スンニ派の代表選手はサウジアラビア(スンニ派のワッハーブ派)で、
シーア派のそれがイランだ。ちなみにサダム・フセイン時代のイラクは、
国民の大半がシーア派であるのに対し、少数派であるスンニ派の
サダム・フセインが権力を掌握していた。
この旧イラクの状況が現在のシリアに似通っている。シリアは人口の約7割がスンニ派で、
そのスンニ派をアラウィ派(13%)のバシャル・アサド政権が強権で抑え込んでいる。
アラウィ派はシーア派の一派だから、つまりは旧イラクとまったく逆の立場になっている。
日本のメディアは、こうしたイスラム教宗派内の対立の構図をわかりやすく説明しないから、
宗教オンチの日本人にはいつまで経ってもアラブのことが分からない。そしてアメリカ寄りの
報道を浴びているうちに、「アサド政権=悪者」というイメージを植え付けられてしまう。
シリアの歴史を遡れば、少数派のアラウィ派は多数派のスンニ派による差別と殺戮に
さらされてきた。その力関係が1970年を境に逆転し、バシャルの父ハフェズ・アサドが
権力を掌握した。スンニ派を力で抑え込んだのである。バシャルが父親から政権を
委譲されたのが2000年。ほぼアラウィ派で固めた軍隊と情報機関、そしてメディアは
アサド体制に忠実で、スンニ派の住民を反体制テロリストと見なしている。彼らの目には、
たとえ女子供であってもスンニ派ムスリム同胞団の仲間としか映らない。
女子供が虐殺された古都ホムズはスンニ派の一大拠点で、アサド政権から見れば
テロの温床と呼ぶべきところだ。自国民を虐殺していると各国は非難するが、
アサドにとっては自国民より前に彼らは政権をおびやかすスンニ派の住民なのだ。
スンニ派はアラウィ派の宿敵で、すなわち反体制のテロリストなのである。
宗教に疎い日本人の目には極悪非道なアサド政権、という印象が濃厚だが、
もしこの政権が崩壊したら、スンニ派のすさまじい報復が始まると、
政権側のアラウィ派は戦々恐々としている。やられる前にやってしまえ。
はた目には異常としか映らない死に物狂いの殺戮は、
そんな不安な心理から発している。
不思議なことに、シリアの最大の敵であるイスラエルは、「いい気味だ」と高みの
見物と思いきや、仇敵のアサド大統領を陰で支えている、というのだから話はややこしい。
シリアでエジプトみたいに革命が起き、イスラム(原理?)主義派であるムスリム同胞団が
選挙で大勝したら、イスラエルは前にも増して敵国に囲まれるという状況になってしまう。
そうなると国家存亡の危機だ。イスラエルとしてはサウジアラビア(スンニ派)とシリア
(アラウィ派=シーア派)の冷戦が続き、互いに牽制し合ってくれたほうが都合がいいのだ。
●サウド王家が支配するサウジアラビア(スンニ派)=アメリカ&NATO&アラブ連盟のお友達
●イラン&シリア(シーア派)=中国&ロシアのお友達+レバノン・ヒズボラ(シーア派)
リビアのカダフィを支えていた中国とアサド政権を支えているロシア。
両国が恐れているのは地中海が〝NATOの海〟になってしまうことだ。
中露の最後のお友だちがイランとシリアになってしまってはまずい。
大事な資源ルート(主に原油)と武器の販売先を確保する意味でも、
この両国を失うことは許されないのだ。
聞けばリビアとシリアはロシアにとって最大の武器輸入国で、
およそ200億ドル相当の武器を買ってくれたという。しかし、
リビアが崩壊し、40億ドル相当の得意先が瞬時に消えてしまった。
残るシリアまで失ってしまったら、ロシアの軍産複合体は危殆に瀕してしまう。
ロシアが必死にアサド政権に肩入れするのはもっともなことなのだ。
シーア派とスンニ派の違いは一言では説明できない。
ましてやボクのような素人にはよく分からない。
両派の和解はたぶん不可能だろう。
チュニジア、リビア、エジプト、イエメンと、各国の長期独裁政権を倒してきた。
そして今、シリアのアサド政権が内戦状態に陥り、その命脈が尽きようとしている。
アサド政権は軍隊を使い、女といわず子供といわず、市民を虐殺していると報道されている。
アメリカと国連はこれを強く非難するが、中国・ロシアは「アメリカこそ反政府側に武器を援助
しているじゃないか」と反論、アサド政権に攻撃用ヘリなどを貸与しアメリカと対立している。
日本のメディアの報道では米ソ冷戦の再来かという論調だが、事はそれほど単純では
ない。イスラム教といっても一枚岩ではなく、よく知られているのがシーア派とスンニ派の
2大宗派の対立だ。といってもシーア派は少数派で、スンニ派がイスラム教徒全体
(15億7000万人)の約9割を占めている。
スンニ派の代表選手はサウジアラビア(スンニ派のワッハーブ派)で、
シーア派のそれがイランだ。ちなみにサダム・フセイン時代のイラクは、
国民の大半がシーア派であるのに対し、少数派であるスンニ派の
サダム・フセインが権力を掌握していた。
この旧イラクの状況が現在のシリアに似通っている。シリアは人口の約7割がスンニ派で、
そのスンニ派をアラウィ派(13%)のバシャル・アサド政権が強権で抑え込んでいる。
アラウィ派はシーア派の一派だから、つまりは旧イラクとまったく逆の立場になっている。
日本のメディアは、こうしたイスラム教宗派内の対立の構図をわかりやすく説明しないから、
宗教オンチの日本人にはいつまで経ってもアラブのことが分からない。そしてアメリカ寄りの
報道を浴びているうちに、「アサド政権=悪者」というイメージを植え付けられてしまう。
シリアの歴史を遡れば、少数派のアラウィ派は多数派のスンニ派による差別と殺戮に
さらされてきた。その力関係が1970年を境に逆転し、バシャルの父ハフェズ・アサドが
権力を掌握した。スンニ派を力で抑え込んだのである。バシャルが父親から政権を
委譲されたのが2000年。ほぼアラウィ派で固めた軍隊と情報機関、そしてメディアは
アサド体制に忠実で、スンニ派の住民を反体制テロリストと見なしている。彼らの目には、
たとえ女子供であってもスンニ派ムスリム同胞団の仲間としか映らない。
女子供が虐殺された古都ホムズはスンニ派の一大拠点で、アサド政権から見れば
テロの温床と呼ぶべきところだ。自国民を虐殺していると各国は非難するが、
アサドにとっては自国民より前に彼らは政権をおびやかすスンニ派の住民なのだ。
スンニ派はアラウィ派の宿敵で、すなわち反体制のテロリストなのである。
宗教に疎い日本人の目には極悪非道なアサド政権、という印象が濃厚だが、
もしこの政権が崩壊したら、スンニ派のすさまじい報復が始まると、
政権側のアラウィ派は戦々恐々としている。やられる前にやってしまえ。
はた目には異常としか映らない死に物狂いの殺戮は、
そんな不安な心理から発している。
不思議なことに、シリアの最大の敵であるイスラエルは、「いい気味だ」と高みの
見物と思いきや、仇敵のアサド大統領を陰で支えている、というのだから話はややこしい。
シリアでエジプトみたいに革命が起き、イスラム(原理?)主義派であるムスリム同胞団が
選挙で大勝したら、イスラエルは前にも増して敵国に囲まれるという状況になってしまう。
そうなると国家存亡の危機だ。イスラエルとしてはサウジアラビア(スンニ派)とシリア
(アラウィ派=シーア派)の冷戦が続き、互いに牽制し合ってくれたほうが都合がいいのだ。
●サウド王家が支配するサウジアラビア(スンニ派)=アメリカ&NATO&アラブ連盟のお友達
●イラン&シリア(シーア派)=中国&ロシアのお友達+レバノン・ヒズボラ(シーア派)
リビアのカダフィを支えていた中国とアサド政権を支えているロシア。
両国が恐れているのは地中海が〝NATOの海〟になってしまうことだ。
中露の最後のお友だちがイランとシリアになってしまってはまずい。
大事な資源ルート(主に原油)と武器の販売先を確保する意味でも、
この両国を失うことは許されないのだ。
聞けばリビアとシリアはロシアにとって最大の武器輸入国で、
およそ200億ドル相当の武器を買ってくれたという。しかし、
リビアが崩壊し、40億ドル相当の得意先が瞬時に消えてしまった。
残るシリアまで失ってしまったら、ロシアの軍産複合体は危殆に瀕してしまう。
ロシアが必死にアサド政権に肩入れするのはもっともなことなのだ。
シーア派とスンニ派の違いは一言では説明できない。
ましてやボクのような素人にはよく分からない。
両派の和解はたぶん不可能だろう。
4 件のコメント:
イスラムは奇々怪々で簡単ではない、に深く同意します。以下は田中宇氏(問題ある人だと思いつつ)のブログから。
虐殺で殺された村人の多くは、アサド政権と同じアラウィ派イスラム教徒だった。
ドイツの主力新聞フランクフルト・アルゲマイネ・ツァイトンク紙によると、5月25日、ホウラのスンニ派地域を占領していた反政府勢力が検問所を襲撃し、政府軍と銃撃戦になった。反政府勢力は、一時的に検問所を制圧し、アラウィ派が住む地域に流入した。その後、政府軍の戦車部隊がやってきて加勢し、90分後に反政府勢力は退散したが、この間に反政府勢力がアラウィ派の家を一つずつ襲撃し、中にいた家族を、女性や子供にいたるまで、至近距離から銃殺したり、のどをナイフで掻き切って殺した。
この地域には、スンニ派からシーア派に宗旨替えした人々が一家族住んでいたが、彼らも異端者とみなされて皆殺しにされた。スンニ派でも一家族が皆殺しにされたが、彼らはシリアの国会議員の親戚の一族で、政府に協力する人々とみなされたようだ。反政府勢力は、殺された人々を携帯電話などで動画撮影し「政府軍に殺された人々の画像」としてインターネットにアップロードした。彼らが犯人であるなら、非常に周到で巧妙な自作自演の犯行ということになる。
シリアのキリスト教会の修道女(Mother Agnes-Mariam de la Croix)が、ホムス近郊のハリディア地区(Khalidiya)で今年2月に行われた虐殺について、反政府勢力が地区に住むアラウィ派とキリスト教徒を一つの建物の中に集めて閉じこめた上で、建物にダイナマイトを仕掛けて爆発して殺したものであり、報じられているようなシリア政府軍やその傘下の勢力の犯行ではないと証言している。
Row様
こんにちは。
Rowさんから紹介された『チャイナ・ナイン』
と『拝金社会主義中国』はさっそくアマゾンに
注文し、いま読んでいるところ。
とてもおもしろいです。
遠藤誉さんは必読ですね。
さて、シリア情勢ですが、
とうとう内戦状態になってしまいました。
キリスト教徒とイスラム教徒との
戦いではなく、イスラム教徒内での
熾烈な身内争い。
よく分かりませんね、
われわれ多神教の信徒には。
ボクはつくづく思うのです。
一神教など捨てたほうがいいと。
多神教を世界に広めれば
争い事はなくなるのでは……
これは夏の夜の夢。
世の中に
絶えて宗教なかりせば
人の心はのどけからまし (笑)
60肩とイスラム教がこう繋がるとは。
いや、いつもながらお見それいたしました。
ただね、「分析」というのはどこかに視点を定めて行なうものなので、自ずから「良し悪し」や「人道的・非人道的」なんていう「評価」が下され、あたかもそれが正しいような錯覚が一人歩きを始めるという恐ろしい所作なわけです。
あー、暑い夏が来ないかな。葦の陰で美味いビールが飲みたい。
NICK様
NICKさんの締めの文句はいつも同じ。
「ああ、ビールが飲みたい……」
年長者からのアドバイス。
上半身裸になってまずは鏡の前にいく。
そしてお腹のあたりをしみじみ眺める。
ビールを飲むべきか、
それとも薬局へ行って
「ナイシトール」を買うべきか、
ハムレットみたいに悩んでみなさい。
で、ヤケのやんぱちになって
半分人生を降りるという結論になったら、
ビールつき合ってあげます。
もちろん、そっちのおごりで(笑)。
葦の陰ってどこなのさ。
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