2012年2月23日木曜日

匹夫の勇

津軽地方には「夜這い三段」という言葉がある。
夜這いが一人前になるには3年の修行が必要、の意である。

もともと「求婚(よばい)」と書き、いつの頃からか、
単刀直入に「夜這い」と書くようになった。
夜這って行く、というイメージにはいかにも動物的なおかしみがある。

夜這いの経験はあるか? と問われれば、
もう時効だからいっちゃうが、「Yes」だ。
四六時中発情していた若い頃の話だから、
古女房も笑って済ませてくれようが、
どこかケダモノじみていて思い出すだに恥ずかしい。


今は昔(明治~昭和の初め頃までか)、夜這いのいでたちは半纏に股引、
わら草履に手ぬぐいの頬っかぶりと相場が決まっていた。
で、いよいよ忍び込む段になると、半纏と股引を脱ぎ、ふんどしを外し、
スッポンポンに頬っかぶりという奇妙なかっこうになる。

なぜ素っ裸になるかというと、万が一、親爺や亭主に見つかった時、
泥棒と間違われないためで、ハダカは「夜這いですよ」という印でありサインだった。
泥棒は罪になるが夜這いは罪にならない。見つけた親爺も警察には
突き出さない。親爺にも身におぼえがあるからだ。

戸の開け方から入り方、畳の歩き方、這い方、夜具への入り方、
そして逃げ方と、一人前になるには人知れぬ努力と辛抱が要ったという。

夜這いは〝男の修行の場〟などといわれたが、
たしかにそんな一面はある。恥を知らぬ勇気とやけっぱちの胆力、
そしてオットセイのような絶倫の精力。この三拍子が揃い、
「うおーッ!」と一騎駆けするような匹夫の勇がないと、
敵の本丸を前にしてあえなく玉砕の憂き目を見る。

ピンポーン。
「はァーい、どなた?」
「夜這いです」
「間に合ってまーす」
「…………」

「鍵」というもので個人の生活ががっちりガードされている時代にあっては、
夜這いはニホンオオカミのように遠からず滅びの道を辿るだろう。
いやすでに滅びている。

雑魚寝や夜這い、盆踊りは日本の誇る代表的な性民俗だ。
だいいち宮本常一の『忘れられた日本人』など夜這い話のオンパレードではないか。
「日本料理」の申請もいいけれど、ついでに聖なる「夜這い」も
世界文化遺産の登録に申請してくださいな。




2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

勞さん

愚輩が読んだか、聞いたかしたのは
「”呼び合い”がいつの日か”夜這い”になった」と言う事でした。

夜半にこっそり”呼び合い”すなわちラブ・コールしあって、未婚の男女が合意の上で行為に至った事と理解してました。 

そういえば”通い婚”と言う行為もあったと聞きましたが”呼び合い”の一種かな?

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

匿名様

求婚のために女のもとに通うことを
古来、「よばふ」といったそうです。

万葉集に
「人国(ひとくに)に求婚(よばい)に行きて太刀の緒も 未だ解かねばさ夜明けにける」
とあります。妻問い婚が一般的だった頃の歌です。

男が女に呼びかけ、
求婚する(呼ばふ)ことが語源と聞きます。

昔は結婚しても男は女のもとに
通ったんですね。