2010年3月14日日曜日

ピッツァの縁(ふち)

その昔、イタリアはミラノのピッツェリーアで
ひとりピッツァを食べていた(と思いねえ)。
アメリカ映画を見慣れた人なら、
ここは手づかみで食べたいところだろうが、
周囲のイタリア人はみな楚々とした手つき
で、ナイフとフォークを操っていた。
(ヘーエ、ずいぶん気どって食べるんだな)
ちょっと驚きだった。

で、こっちもマネして気どったまでは
よかったが、食べた後が違った。
隣のテーブルで澄まし顔で食べてた
妙齢の女性の皿の上を見たら、
生地の縁だけきれいに残されていたのだ。
あわてて他のテーブルを見たら、やっぱり縁は残されていた。

僕なんか、あの硬い縁のところが好きで、パエリアでいうなら一番美味しい
おこげのところじゃないの、と思っているのだけれど、
イタリア人はそうは思わないらしい。縁は硬いし、
ソースが塗られていないところを食べても味気ない。
ソースと一体になってこそピッツァはおいしい、
と考えるのがイタリア流なのだそうだ。

またスパゲッティの食べ方で、日本では一時期、スプーンのくぼみに
スパゲッティをのせ、フォークでくるっと巻いて食べる方式が流行ったことがある。
(今でもいますよね、スプーン派が)イタリア人はみなああやってお上品に
食べているのだろう、と思いがちだが、さにあらず。
平均的イタリア人は決してスプーンなど使わない。

あれはシチリアの一部に定着している食べ方で、
おそらくアメリカに渡ったシチリア移民が広げたもので、
それが日本に伝わったものだろう、といわれている。
僕なんかてっきり「上品な食べ方」だと思い込んでいたが、
イタリア人の目には「幼稚で田舎くさい」食べ方に映るらしい。
(なにしろ、北イタリア人はローマ以南をアフリカだと思ってるからね)

僕の友人に吉川敏明という料理人がいる。
イタリア料理界の重鎮で、生き字引といわれるほどの博聞の士でもある。
趣味はイタリアの辞書・辞典を読むこと(ついでに食べたりして)。
とにかくイタリア料理に関しては、右に出る者がないという
スーパー・イタリアン・フリークなのである。

そのイタリアおたくが、『ホントは知らない イタリア料理の常識・非常識
という本を出した。編集をお手伝いしたのは、やはりイタリアおたくのはしくれ
を自称する僕の女房だ。

●パスタをズルズルすするべからず ●リゾットはフォークで食べるもの 
●エスプレッソのダブルは野暮 ●シーザーサラダの発案者はメキシコのシーザーさん
などなど、目からウロコ(イタリアでは『目から生ハム』という)のおもしろ話が
楽しいイラストと共に解説されている。

ちょっぴり宣伝めいてしまいましたが、カミさんが手塩にかけて作った
できたてホヤホヤの本です。いわゆる雑学本ですから肩がこりません。
イタリア料理がお好きでしたら、ぜひ手にとってみてください。
一読するだけで、ちょっとしたイタリア料理通になること請け合いです。

宣伝ついでに、悪のりしてもう一冊(←カミさんが隣りで脅すもので……)。
これは『チーズのソムリエ ハンドブック』という本で、
チーズおたくでもある女房が、編集したものです。
ついででけっこうですので、これもひとつよろしく。

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