酒も好きだが、コーヒーも好きだ。
コーヒーがないと仕事がはかどらず、頭も働かない。
ただしインスタントはダメ。あれはコーヒーではない。
韓国の整形美女みたいなニセモノである。
実のところ、インスタントコーヒーの肩を持っていた時期もあった。
しかし原材料の品質はいかんともしがたい。
特にネスレはいけない。質の悪い安価なベトナム産コーヒーを、
さらに買い叩いている。キーコーヒーが少しはマシかと思ったが、
最近は、買いかぶりだったと贔屓するのをやめてしまった。
インスタントコーヒーがなぜダメかというと、アラビカ種ではなく
ロブスタ種(カネフォーラ種)が主に使われているからだ。
ロブスタ種は缶コーヒーやインスタントコーヒーに使われている
質のわるいコーヒーで、アラビカ種のコーヒーみたいにストレートでは飲めない。
だからアラビカ種に混ぜて増量剤のようにして使う。
フランスのカフェオレやベトナムコーヒーには、ミルクと
コンデンスミルクの使用が必須だが、あれはロブスタ種の
いやなニオイ(ロブ臭という)をマスキングするために使われている。
所詮、オシャレだとかカッコいいなどと感心するような飲み物ではないのだ。
かつての植民地がロブスタ生産国だから、宗主国のフランスやイタリアは
ロブを使うしかなかった。苦肉の策で生まれたのが、
ロブ臭を消すためのカフェオレでありエスプレッソでありカプチーノなのである。
ボクは全国の名店からコーヒーをネット購入しているが、
自分でも焙いている。焙煎機などない。手網である。
なんだ手網か、などとバカにしてはいけない。
手網でも相当なレベルまで焙くことができる。
へたな自家焙煎店など目じゃないのだ。
手網やコーヒー生豆は浅草かっぱ橋に行けばすぐ買える。
インターネットでも販売しているから、その気にさえなれば、
すぐにでもコーヒー自家焙煎は始められる。
自分が飲むコーヒーくらい自分で焙いたらどうだろう。
むずかしいというのなら別だが、素人のボクがそこそこ焙けるのだから、
凝り性の人だったら、名人級のコーヒーが焙けるかもしれない。
先日、今年いっぱいで店を閉めるという南青山の「大坊珈琲店」に行ってきた。
午後4時過ぎにおじゃましたのだが、狭い店内は大坊閉店の報を聞き、
常連客が名残を惜しみに来たのか、どの席もいっぱいだった。
この大坊も手網とどっこいどっこいの手廻し焙煎機を使っている。
それで深煎りの名品ともいうべきコーヒーを創り出してしまうのだから、
焙煎の原点でもある手網焙煎をゆめ侮ってはならないのである。
しばらく見ない間に店主の大坊勝次は変わり果てた姿になっていた。
髪の毛が風前の灯だったのだ。自分の滅びゆく髪を棚に上げて
図々しく言わせてもらうと、すでに「万事休す」の感があった。
口の悪いボクも、さすがにそのことには触れがたく、
できるだけ頭のてっぺんを見ないように、伏し目がちにコーヒーをすすった。
コーヒーはさすがに年季が入っていた。とろんとした濃醇な味わいで、
滋養のある黒い液体を胃の腑に流し込むといった趣きなのである。
フレンチとイタリアンローストの境目くらいまで煎り込んでしまうと、
ふつうはただ焦げ臭いだけの一本調子の味になりがちなのだが、
大坊のコーヒーは単純をめざしつつも、ついには複雑の相を帯びてしまう、
といったコーヒーで、ただべんべんと日を送っているだけでは、
とてもじゃないけど到達できそうにないレベルのそれと言っていい。
大坊のカウンターに座る客は、みな一様にバッグから本を取り出す。
いっぱし読書家を気どっているのだ。コーヒーをすすりながら静かに本を読む――
たしかに、スマホを指先でつついている連中よりは、数段利口そうには見える。
故・向田邦子や村上春樹が贔屓にしている店ゆえか、
客までもがどこかアカデミックな雰囲気を漂わせている(買いかぶりすぎか)。
大坊勝次は無口な男だ。余計なことは一切しゃべらない(肝心なこともしゃべらない。プッ)。
それでいて堅っ苦しいかというと、そうでもない。
ポツリポツリと言葉を発し、時々冗談らしいことを言いニヤリと笑う。
ラグビーが好きで、自身も現役のラガーマンだというが、
ちょっと信じがたいところがある。
トドみたいに巨体のボクが突進していったら、鵞毛のように軽い小男の大坊など
空中高く吹っ飛んで、たぶん骨がバラバラに砕けてしまうだろう。
大坊勝次とのつき合いは古い。
初めて会ったのは開店間もない頃だから、
40年ほどになろうか。互いに歳を取り、
あの頃の溌剌とした面影など見る影もないが、
上手に歳を取ったという感じはしないでもない。
ひとつことに専念した男はこんな素敵な顔になる(これもホメすぎか)。
畏るべきかな、大坊勝次。惜しむべきかな、超深煎りコーヒー。
←手網焙煎は簡単。ただしガス台周りは
チャフ(薄皮)が飛ぶのでひどく汚れる。
コーヒーがないと仕事がはかどらず、頭も働かない。
ただしインスタントはダメ。あれはコーヒーではない。
韓国の整形美女みたいなニセモノである。
実のところ、インスタントコーヒーの肩を持っていた時期もあった。
しかし原材料の品質はいかんともしがたい。
特にネスレはいけない。質の悪い安価なベトナム産コーヒーを、
さらに買い叩いている。キーコーヒーが少しはマシかと思ったが、
最近は、買いかぶりだったと贔屓するのをやめてしまった。
インスタントコーヒーがなぜダメかというと、アラビカ種ではなく
ロブスタ種(カネフォーラ種)が主に使われているからだ。
ロブスタ種は缶コーヒーやインスタントコーヒーに使われている
質のわるいコーヒーで、アラビカ種のコーヒーみたいにストレートでは飲めない。
だからアラビカ種に混ぜて増量剤のようにして使う。
フランスのカフェオレやベトナムコーヒーには、ミルクと
コンデンスミルクの使用が必須だが、あれはロブスタ種の
いやなニオイ(ロブ臭という)をマスキングするために使われている。
所詮、オシャレだとかカッコいいなどと感心するような飲み物ではないのだ。
かつての植民地がロブスタ生産国だから、宗主国のフランスやイタリアは
ロブを使うしかなかった。苦肉の策で生まれたのが、
ロブ臭を消すためのカフェオレでありエスプレッソでありカプチーノなのである。
ボクは全国の名店からコーヒーをネット購入しているが、
自分でも焙いている。焙煎機などない。手網である。
なんだ手網か、などとバカにしてはいけない。
手網でも相当なレベルまで焙くことができる。
へたな自家焙煎店など目じゃないのだ。
手網やコーヒー生豆は浅草かっぱ橋に行けばすぐ買える。
インターネットでも販売しているから、その気にさえなれば、
すぐにでもコーヒー自家焙煎は始められる。
自分が飲むコーヒーくらい自分で焙いたらどうだろう。
むずかしいというのなら別だが、素人のボクがそこそこ焙けるのだから、
凝り性の人だったら、名人級のコーヒーが焙けるかもしれない。
先日、今年いっぱいで店を閉めるという南青山の「大坊珈琲店」に行ってきた。
午後4時過ぎにおじゃましたのだが、狭い店内は大坊閉店の報を聞き、
常連客が名残を惜しみに来たのか、どの席もいっぱいだった。
この大坊も手網とどっこいどっこいの手廻し焙煎機を使っている。
それで深煎りの名品ともいうべきコーヒーを創り出してしまうのだから、
焙煎の原点でもある手網焙煎をゆめ侮ってはならないのである。
しばらく見ない間に店主の大坊勝次は変わり果てた姿になっていた。
髪の毛が風前の灯だったのだ。自分の滅びゆく髪を棚に上げて
図々しく言わせてもらうと、すでに「万事休す」の感があった。
口の悪いボクも、さすがにそのことには触れがたく、
できるだけ頭のてっぺんを見ないように、伏し目がちにコーヒーをすすった。
コーヒーはさすがに年季が入っていた。とろんとした濃醇な味わいで、
滋養のある黒い液体を胃の腑に流し込むといった趣きなのである。
フレンチとイタリアンローストの境目くらいまで煎り込んでしまうと、
ふつうはただ焦げ臭いだけの一本調子の味になりがちなのだが、
大坊のコーヒーは単純をめざしつつも、ついには複雑の相を帯びてしまう、
といったコーヒーで、ただべんべんと日を送っているだけでは、
とてもじゃないけど到達できそうにないレベルのそれと言っていい。
大坊のカウンターに座る客は、みな一様にバッグから本を取り出す。
いっぱし読書家を気どっているのだ。コーヒーをすすりながら静かに本を読む――
たしかに、スマホを指先でつついている連中よりは、数段利口そうには見える。
故・向田邦子や村上春樹が贔屓にしている店ゆえか、
客までもがどこかアカデミックな雰囲気を漂わせている(買いかぶりすぎか)。
大坊勝次は無口な男だ。余計なことは一切しゃべらない(肝心なこともしゃべらない。プッ)。
それでいて堅っ苦しいかというと、そうでもない。
ポツリポツリと言葉を発し、時々冗談らしいことを言いニヤリと笑う。
ラグビーが好きで、自身も現役のラガーマンだというが、
ちょっと信じがたいところがある。
トドみたいに巨体のボクが突進していったら、鵞毛のように軽い小男の大坊など
空中高く吹っ飛んで、たぶん骨がバラバラに砕けてしまうだろう。
大坊勝次とのつき合いは古い。
初めて会ったのは開店間もない頃だから、
40年ほどになろうか。互いに歳を取り、
あの頃の溌剌とした面影など見る影もないが、
上手に歳を取ったという感じはしないでもない。
ひとつことに専念した男はこんな素敵な顔になる(これもホメすぎか)。
畏るべきかな、大坊勝次。惜しむべきかな、超深煎りコーヒー。
←手網焙煎は簡単。ただしガス台周りは
チャフ(薄皮)が飛ぶのでひどく汚れる。
2 件のコメント:
労師、大坊さんの頭部における激変は、一過性のモノかもしれません。
閉店交渉が決着する経緯で、‘脱毛症’を患った(本人:談)そうです。
万事休すっていうよりも、心の衣替えが髪にも伝わってことでしょう。
私は、新展開への「万事~ジャンプ」だとでも解しておきます。
帰山人様
先日はお電話で失礼致しました。
久しぶりに生のお声を聞くことができ、
感涙にむせびました。
さて大坊氏のオツムの激変は神経性の
脱毛症とのこと。
ボクのカミさんが昔、円形脱毛症にかかった
ことがあったけど、ストレスが最大の原因
と言ってました(苦労かけてるもんね)。
大坊さん、神経あったんだね(当たり前やろ!)。
たしかに万事休すではなく、
蛮爺ジャンプ(へたな洒落言ってんじゃねえ)
ですね。さらなる飛躍を期待したいところです。
ボクたち蛮爺もいつの日か飛躍せんとね。
だれにも期待されてないけど……
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