2013年8月21日水曜日

大坊珈琲店よ永遠に

南青山にある大坊珈琲店が12月をもって店仕舞いするという。
'75年の開店以来、たった13坪のちっぽけな店ながら、
手廻しロースターをガラガラ廻して頑張ってきた。
閉店の理由は何のことはない、古くなったビルの取り壊しだという。

コーヒーにうるさい連中は大坊(だいぼう)こそ「日本一のコーヒーを出す店」だと口を揃える。
ボクも異論はない。あのとろりとした濃醇なコーヒーこそ日本人に愛されるコーヒーだろう。
また、かつては向田邦子、いまは村上春樹(コーヒーは③番好み)に愛されている店でもある。
ある常連は、カウンター席に座ってふと隣を見たら村上春樹がいたのでビックリした、
と自身のブログに書いている。

もっともボクは村上春樹の小説がきらい(『遠い太鼓』など旅行記はなんとか読める)だから、
隣席にご臨席たまわっていたとしても、「フン!」てなもんだろうが、
物好きなことに広い世の中には春樹マニア(ハルキストという)がごまんといらっしゃる。

こんなことを書くだけで、コーヒーに何の興味もないミーチャンハーチャンがドッと押しかけ、
店と客に迷惑をかけるかもしれないので、ちょっぴり気が引けてしまうのだが、
たとえミーハーでも大坊の珠玉のコーヒーを1杯くらいは飲んでくれるだろうから、
それはそれでわるい話ではないだろう。

店主は大坊勝次という恍惚漢(なりかけてる)、ではなくて硬骨漢。盛岡出身の元銀行マンで、
その物静かな佇まいは、どこか修行僧(女の道を修行してたりして……プッ)を思わせる。

大坊珈琲店のどこがすごいかというと、
当たり前だがコーヒーがすごい(ボク好みの濃ゆい味なんです)
まずメニューが変わっていて、
1. 30グラム 100cc 700円
2. 25グラム 100cc 650円
 
3.   20グラム 100cc 600円
4.   25グラム   50cc   700円
5.  15グラム  150cc 600円
というように、使用する豆のグラム数やカップボリュームによって値段を分けている。
1番2番は濃厚こってり味で、4番は濃い茶をドゥミタスカップで飲む感覚。
ネルの漉し袋で点滴みたいに時間をかけ抽出してくれる。

わが家は全員コーヒー党だと、再三書いている。
女房は紅茶党だったが、コーヒー党にあっさり鞍替えしてしまった。
なぜいとも簡単に宗旨替えしてしまったのか。理由は簡単、
本物のレギュラーコーヒーを飲み続けたからである(フン、偉っらそうに!)。

インスタントや缶コーヒーには宗旨替えさせるだけの力はない(まずいロブスタ種が入ってる)。
へたをすると逆にコーヒー離れを引き起こしかねない。
もっともスーパーなどで売っているレギュラーコーヒーは、
インスタントコーヒーの味とおっつかっつなので、
レギュラーコーヒーならすべてよろしい、というわけではもちろんない。
要は〝本物〟のレギュラーコーヒーを飲みましょう、ということなのだ。

わが家の冷蔵庫と冷凍庫にはコーヒー豆がいっぱい詰まっている。
自分で焙煎した豆もあれば、全国各地の名店から取り寄せた豆もある。
それらを日に何杯も飲むのである。

本物のコーヒーにふれれば、インスタントや缶コーヒーは飲めなくなる。
舌が受けつけなくなるのだ(時々、禁を犯してしまうが、あとで必ず後悔する)。
ウソだと思ったら、いっぺん冷めたインスタントコーヒーを飲んでみてくれ。
低級豆が馬脚をあらわし、変なニオイもして飲めたものではない。
一方、本物のレギュラーコーヒーは冷めてもうまい。この違いは大きい。

ボクは東大教授・臼井隆一郎の次なる一文が好きだ。
《コーヒーは複雑な苦みを特徴とした飲み物である。子供の飲み物ではない。
生きることがきれいごとでは済まないことを知った大人の飲み物である。
コーヒーには単に自然の苦みばかりではなく、
社会や歴史の苦みも溶け込んでいる。それがいい。
大人が生きていく上で必要な認識など、苦みからしか生まれてこないのである

真の苦み、大人の苦み、生きる上での糧となる苦みを知りたければ、
迷わず「大坊」へ行くべし! 閉店までまだ4ヵ月ある。急ぐことはない。
日本で一番うまいコーヒー(てぇことは世界一うまいコーヒーだということ)とは、
そもいかなるコーヒーなのか。本物のコーヒーとはどんなものなのか、
自分の舌と鼻でしかと確認してもらいたい。

ああ、大坊がついに消えてしまうのか(さみしい)。
近い将来、どこかの街角(和光市がいいな)に復活されんことを祈る。





←自身は無色透明でありたい、という大坊氏。
写真左下隅に見える小さな手廻し焙煎機で、
絶妙な味のコーヒーを創り出す。
脱毛が悩み、と葉書にあったけど、
まだあるじゃん、お毛々が。
贅沢言うんじゃないの

訂正
左掲写真は、まだ若い頃の写真でした。
いまはお毛々もまばらです。
滅びゆく草原(古いな)であります。
悩んで当然です。大変ご愁傷様です(プッ)。(10/7付)
 

8 件のコメント:

木蘭 さんのコメント...

しまふくろうさま、こんばんは。

のんびり屋の木欄でございます。


ゆるりとここを散策し、
「お盆とマイケルさんのところにコメントを書こうかな~」と思っているうちに「きゅうりの一本漬け」がアップされ、

ああ、大変。コメントしなきゃ~と思っているうちに「大坊珈琲よ永遠に」がアップされていました。(笑)


マイケルさんもしまふくろうさまも、
どちらもとっても素敵ですよ。(*^^*)

日本の伝統を異人さんの肌で感じていただけたことでしょう。

次の来日が楽しみですね。

私は~写真の中の「氷」の文字にひかれました。(笑)



次なる本の原稿を書き始めていらっしゃるとか。今度は腱鞘炎にならないようにお気を付けて筆をすすめてくださいね。

きゅうりの一本漬け。
色よく仕上げてあり、とても美味しそうです。(#^^#)
よほど重い重石で漬けるのでしょうか。
お作りになる時は「重石」として私もお手伝い伺いましょう。(笑)



今日、早朝に山梨にでかけ、
夕方には戻って参りました。

帰りに幕張のスタバでコーヒーを飲みましたが、慣れない私にはスタバのメニューでさえも何がなんだか。(笑)


このブログとお写真から、
コーヒーの良い香りが漂ってくる気さえ致します。

しまふくろうさまの深い思いがなせるわざなのでしょうか。

いつか「本物」のコーヒーを味わってみたいなと、がらにもなく思った次第です。(#^^#)

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

木蘭様

おはようございます。
山梨に日帰り出張?ですか、ご苦労さまです。

駄文を次々アップしているのは、
例の〝現実逃避〟というものです。
試験の前日に小説を読みふけってしまう、
というアレですね。

原稿を書くのはきらいではないのですが、
アドレナリンが大量に放出されるのか、
妙に興奮してしまうのです。

書斎にあっても、腰が落ち着かず、
数行書くとおもむろに立ち上がり、
檻の中の熊みたいに部屋の中を
歩き回ることがあります。

それと口がさみしいので、
絶えず飲み物を口にしています。
コーヒーの次は緑茶、豆乳、トマトジュース、
中国茶、ミルクティー、またコーヒーと……

そして5時になるとスパッと仕事を切り上げ、
ビールをゴクゴク……

さて、きゅうりの一本漬けですが、
塩で板ずりしたきゅうりを、
水、塩、昆布、酢、砂糖、ショウガ千切り、
タカノツメなどを混ぜた液を一度沸騰させ、
粗熱が取れたら漬け込むだけ。
作り方はいたって簡単です。

子どもの頃、夏になると
塩もみしたきゅうりをよく食べましたね。
母のもんでくれたきゅうりはパリパリしておいしかった。



会いたいな、母さん。


田舎者 さんのコメント...

嶋中労さま

こんにちは!

“大坊珈琲よ永遠に”を読んで
30年ほど前に初めて訪れた日の味が
甦ります。10数回ほどの田舎からの
上京でしたが、何時もと変わらぬ味が
いつもと変わらぬ空間の中で過ごせた
事が良い思い出です。
当時、手回しロースターで高級焙煎機
以上の味を引き出す技が不思議でなり
ませんでした。
12月までには、
《大坊の珠玉コーヒーを1杯》
いただきます。

ブログ記事にしてくださったこと
感謝申しあげます。

田舎百姓

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

田舎者様

いらっしゃいませ。

おっしゃるとおり、あんなちっぽけな
手廻し焙煎機で、あれほどの味を
出せるというのはふしぎですよね。

だいいち煙の抜けがわるいですから、
ガスごもりみたいな味になってしまうと
思うのですが、そうはならない。
実にふしぎなのです。

低温で比較的時間をかけて焙いていけば、
あの手の焙煎機でもうまくいく、とこれは
某有名コーヒーフリークが言ってましたが、
直接、大坊さんに聞いてしまったほうが
早いですね。

ボクもこの世の見納めとばかり、
何回か足を運ぼうと思っています。
でも、ボクが行くと、いつも彼は留守なんです。相性がわるいんですね、きっと(笑)。

木蘭 さんのコメント...

しまふくろうさま、こんばんは。

本日は優しく育まれた「珈琲豆」をコウノトリになって送って下さりありがとうございました。(*^^*)

「豆」を試食したあと、
すり鉢でゴリゴリと「中挽き」くらいにして仰せのようにして頂きました。

私も酸味のないほうが好きです。
苦み走った素敵なお味でした。
とっても美味しく頂きました(*^^*)


厨房「城」の主、
当寺院の奥様からの質問でございます。

紙フィルターのない「ステンレスドリッパー」の場合も、同じ温度、同じ時間でよろしいでしょうか、との事です。


お時間のある時にお教え下さいませ。


あ、お礼を申しあげるのが大変遅くなりましたが、
過日は私の「宣伝」をして下さり、誠にありがとうございました。m(__)m

お陰様でたくさんの方々に読んで頂けたようです。(*^^*)

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

木蘭様

こちらこそ、木蘭さんの生の声を聞くこと
ができて、とっても幸せです。そのお声は、
まるで天空から聞こえてくる妙なる調べのようでした。

さてご質問ですが、通常のペーパーフィルター
とさほど違いはないと思われます。ボクなら
90℃前後で抽出しますね。

必ず〝蒸らし〟の状態を30秒くらい作って
くださいね。そのことだけ気をつけていただければ大丈夫です。

お電話ではSさんでしたが、ボクの中では
ずっと木蘭さんです。そしてボクはシマフクロウ。木蘭さんの前でSになったりKになったり
することはありません。

ボクはずっとBlakiston's Fish Owlです。

オオヤ ミノル さんのコメント...

コーヒーの味は科学ではない、なぜなら作り手と飲み手両方の人生のお話だから。しかし人生は誰かの何かの言い訳に使われ易く、善意の人は、ダンディーは科学や数字に置き換える、やはりそれは文学だと思う。僕が大坊さんに教わった一つのことです。 オオヤコーヒー

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

オオヤ様
ご無沙汰しております。

群衆を眺めていると、ひとはみな、一見無個性に思えるときがありますが、一人一人はとても個性的です。

たとえば水泳。ボクはよくプールで泳ぎますが、みなだれも実に個性的な泳ぎをします。遠目からでもだれが泳いでいるのかハッキリ認識できるくらい個性が際立っています。

大坊さんはカウンターの中ではつとめて無口にしています。その姿勢が店の流儀なのか、彼個人の美意識から来ているものなのかは分かりません。

しかし彼と彼の醸す店のたたずまいといったものは、だれにもマネできない極めて個人的なものだと思います。

その肌合いというか〝空気〟に心から馴染めるひとが常連となり、店や店主と無言の会話を愉しむことができます。

1+1=2という純粋数学以外はみな文学、と言ったひとがいます。大坊さんの営みも、
オオヤコーヒの営みも、どちらもひとの営為であり、煎じつめればみな文学であります。

違いは共感や感動の度合いがあるだけです。