2012年10月23日火曜日

恐怖の質疑応答

昨夜、「アーツ千代田3331」にて、タグタン(田口護+旦部幸博)コンビの講演会が
あるというので、のぞいてみた。去る5月、タグタン両氏は『田口護のスペシャルティ
コーヒー大全』で「第3回辻静雄食文化賞」を受賞。その記念講演とスペシャルティ
コーヒーの試飲会がおこなわれるというのである。関係者の一人としては出かけぬ
わけにはいくまい。

勉強熱心なボクは例によって講演者に無言の圧力をかけるべく最前列の席を占めた。
というと、いかにも大物みたいに聞こえるが、それはまあ冗談で、講演を録音するため、
講師陣の近くに陣取ったに過ぎない。

タグチ氏は冒頭、
「この本は私一人ではとても書けませんでした。文章を書く人、デザインする人、
写真を撮る人、そして編集する人と優秀な制作スタッフがいて初めて世に出すこと
ができました。講演の前にまずはそのスタッフたちを紹介させてください」
とやったもんだから、最前列に座ったボクは心臓が「ドッキーン」。
(しまったァ……飛んで火に入る何とやらだった)
大いに悔やんだものの、後の祭りである。

「では、まず目の前にいる〝中嶋さん〟から紹介します……」
ボクは一瞬、目が点になり、思わず後ろをふり向いてしまった。
(エエーッ? また中嶋かよ、御大もいよいよ耄碌ジジイになっちまった……)
しぶしぶ腰を上げ、タグチ氏に向かって、
「そろそろ名前を覚えてくれませんか、タグチさん。長いつき合いなんですから……」
とやんわりイヤミを言ったら、会場からはドッと笑いがこぼれた。

もう30年来のつき合いで、実名のコバヤシは使わないでくださいね、
仕事上の私の名前は「シマナカ・ロウ」というのですよ、わかりましたね、
認知症の老人に語るがごとく念を押しても、シマナカと呼ばれることはついぞなく、
いつもコバヤシか嶋中を逆さまにしたナカジマと呼ばれてしまう。
シマナカという名はよほど覚えにくい名前なのだろうか。

会場には世に言う〝YKT48〟という「闇の御三家」のうちの「Y氏」と「T博士」が顔を
揃えていた。一番の大物と呼ばれる「K氏」こと鳥目散・帰山人(トリメチル・キサンジン)氏は
幸いにも欠席。講演者は一様にホッと胸をなで下ろしていた。なぜって、帰山人氏は
講演後の質疑応答では必ず質問に立ち、難問をぶつけては講演者を立ち往生させるからだ。
それが帰山人氏の隠微な、嗜虐的楽しみの一つなのである。

とにかくコーヒーおたくの〝くるくるぱー度〟がTOEICでいえば990点の最高点
という御仁なのだからいいかげんにあしらったら逆に火傷してしまう。
いつも難題を持ちかけ、講演者の困り果てた顔を見るのが人生最高の快事、
という男なのだから始末に悪い。

アマチュアがプロを完膚なきまでやっつける。こうした対決は見世物としては最高だろう。
だから講師陣の側はいつだって戦々恐々。コーヒー関連の催し物で、帰山人氏が
聴講しているか否かは、主催者側や講師陣の大きな関心事の一つなのである。

そんなわけで、タグタン・コンビは何の憂いもなく講演を終えることができた。
講演後、ボクと「T博士」が会場外のテーブルでひと息ついていたら、
隣のテーブルで休んでいた聴講者のグループが、
「あのさァ、キサンジンって知ってる?」
などとヒソヒソやっている。なかにはうがい薬の一種かと勘違いしたものもいたようだが、
ボクと「T博士」は思わず顔を見合わせニッコリ。キサンジンの盛名は、
どうやらコーヒーのギョーカイ内では疫病のように広まっているようだ。

「会場にいなくてよかったですね。なにしろKさんがいると、
ひっちゃかめっちゃかになってしまいますからね」
と、T博士も講演が無事つつがなく終わってひと安心といった顔だ。
ふだんはトリゴネリンだとかブタンジオンだとか、わけのわからない化学用語で
頭を一杯にしている博士も、今夜ばかりはトリメチル・キサンジンという「うがい薬」に
とりわけナーヴァスになっていたようだ。
ガラガラガラガラ……ペッ! ああ、さっぱりした。





←『田口護のスペシャルティコーヒー大全』の
中国語版(台湾版と中国本土版の2種あり)


4 件のコメント:

帰山人 さんのコメント...

ロウ師、欠席者をネタにしないでください!
次回からタグに会ったら、
中嶋・虚(ウロ)って刷り込みますヨッ!
 
それにしても、タグタンは
スペシャルな対談だったでしょうねえ。
当方は対抗して、ネット配信の番組で
「アンチ・スペシャルティー対談」を
する予定です、ヒヒヒヒヒ。
http://www.facebook.com/ust240#!/events/124344707717468/

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

帰山人様

ごめんごめん。
悪気はないのです。

ただね、閣下がいないと、いかな立派な
講演会であっても画竜点睛を欠く、
と言いたいわけさ。

ところで「アンチ・スペシャルティ対談」
は楽しみだね。
せいぜい万丈の気を吐いてくださいな。

森光宗男 さんのコメント...

嶋中様こんにちは。美美の森光です。今日まで忘憂日誌を書いてらっしゃるとはしりませんでした(Webは基本的に性が合いません、最小限でやってはいますが)。時々開いてみます。小生、相変わらずですが、やっと「手の間」から単行本をだすことになりました。タイトルは「モカに始まり」
いままでの寄稿文やエッセイなどなどをまとめたものです。11月1日発売、本屋で立ち読みください。まずは近況報告まで!

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

森光様

ごぶさたです。

Webが性に合わないというのはボクも同じ。
森光さんは18世紀の人だものね、
合うわけないです。

流行のスペシャルティコーヒーが大きらいで、
好きなのは世界最古のジェルジェルトゥ・アビシニカなんていうコーヒー、というのだから、
ますます合うわけないのです。

ボクは娘やこれから生まれるであろう孫に
向かって書いてます。遺言というか、
まあ遺書のようなものですね。
ジイサンはこんな愚かなことを考え、
こんな愚かな友に囲まれていたんだ、
という証拠物件(笑)。

『モカに始まり』は楽しみですね。
本屋に日参して立ち読みすることにします。