昨夜、友人のU君を亡くした。
わが団地住民の右総代、というような男で、
こわもてで無愛想だが、実に心の温かい男だった。
友人からのメールでその急死を知った時、
一瞬、何のことやらわからなかった。
真偽を確かめるべく急いでU君の住む隣の棟まで走った。
応対に出てきたのは息子だった。急死はほんとうだった。
「急に身体の具合が悪くなりまして……」
出版社に勤める息子は、多くを語らなかった。
U君の顔を見たのは1週間ほど前だった。
市会議員のKさんが、「Uちゃんがひきこもっちゃってるよ」
と冗談交じりに言うものだから、
(鬼の霍乱だな、きっと)
と、こっちも真に受けず、ひとつ冷やかしに行ってみようと、
年賀の挨拶も兼ねて訪ねてみたのである。
「ヨォ、どうしてる? 最近、お見限りじゃないの。
恒例の餅搗き大会にも出てこなかったし……。
みんなUちゃんのムスッとした顔を恋しがってるよ(笑)。
ん? どうしたの。どっか具合でも悪いの?」
玄関口に立ったUちゃんは、いつもと変わらぬ仏頂面で、
「いや、別に……ちょっと調子が悪いだけ。酒も飲みたくないし」
「まさか妙な病気を患ってるんじゃないよね」
「…………」
あの手この手で探りを入れてみたが、ガードは堅かった。
(いつものUちゃんじゃないな……やっぱ、調子悪いのかな)
「ま、見たところ大丈夫そうだから安心したよ。
たまには一杯やろうよ。じゃ、またな……」
結局、この会話が、U君との最後のやりとりになってしまった。
まだ60代半ば。あまりにも若い。
団地の生き字引ともいうべきU君は、
管理組合で一緒だった時は、団地内のわけのわからない連中
(どんな事案にも反対する共産党とか旧社会党みたいな連中)を向こうに回し、
獅子奮迅の働きをした。彼はいわば志を同じくする戦友みたいなものだった。
プライベートでも思想信条を共有する同志だった。
彼は毎年、敗戦記念日に靖國神社へ赴き、英霊たちの魂を鎮めた。
また日本国をダメにする朝日新聞や毎日新聞、日教組を蛇蝎のごとくきらっていた。
一路白頭ニ到ル――。
誰が何と言おうと、白髪頭になるまで自分の信念を貫き通す――そんな意味である。
U君の男くさく骨っぽい生涯をふりかえった時、白髪頭の風貌と相俟って、
キリスト者留岡幸助の座右の銘がふと頭に浮かんだ。
ウッちゃん、あんたがいないとひどく淋しいよ。
あっちでは仇敵だったO女史とはくれぐれも仲良くしてね。
そのうちイト◇のじっちゃんとかキタ◎◆のババアが会いに行くだろうから、
もうしばらく辛抱してくれ。
おれ? おれはまだ飲み足りないから、もうしばらく娑婆にいるよ。
迷わず成仏してくれ。合掌。
←This One Thing I Do !
留岡はこれを「一路白頭ニ到ル」と訳しました。
〝われ、この一事を努む〟
いい言葉ですね。
わが団地住民の右総代、というような男で、
こわもてで無愛想だが、実に心の温かい男だった。
友人からのメールでその急死を知った時、
一瞬、何のことやらわからなかった。
真偽を確かめるべく急いでU君の住む隣の棟まで走った。
応対に出てきたのは息子だった。急死はほんとうだった。
「急に身体の具合が悪くなりまして……」
出版社に勤める息子は、多くを語らなかった。
U君の顔を見たのは1週間ほど前だった。
市会議員のKさんが、「Uちゃんがひきこもっちゃってるよ」
と冗談交じりに言うものだから、
(鬼の霍乱だな、きっと)
と、こっちも真に受けず、ひとつ冷やかしに行ってみようと、
年賀の挨拶も兼ねて訪ねてみたのである。
「ヨォ、どうしてる? 最近、お見限りじゃないの。
恒例の餅搗き大会にも出てこなかったし……。
みんなUちゃんのムスッとした顔を恋しがってるよ(笑)。
ん? どうしたの。どっか具合でも悪いの?」
玄関口に立ったUちゃんは、いつもと変わらぬ仏頂面で、
「いや、別に……ちょっと調子が悪いだけ。酒も飲みたくないし」
「まさか妙な病気を患ってるんじゃないよね」
「…………」
あの手この手で探りを入れてみたが、ガードは堅かった。
(いつものUちゃんじゃないな……やっぱ、調子悪いのかな)
「ま、見たところ大丈夫そうだから安心したよ。
たまには一杯やろうよ。じゃ、またな……」
結局、この会話が、U君との最後のやりとりになってしまった。
まだ60代半ば。あまりにも若い。
団地の生き字引ともいうべきU君は、
管理組合で一緒だった時は、団地内のわけのわからない連中
(どんな事案にも反対する共産党とか旧社会党みたいな連中)を向こうに回し、
獅子奮迅の働きをした。彼はいわば志を同じくする戦友みたいなものだった。
プライベートでも思想信条を共有する同志だった。
彼は毎年、敗戦記念日に靖國神社へ赴き、英霊たちの魂を鎮めた。
また日本国をダメにする朝日新聞や毎日新聞、日教組を蛇蝎のごとくきらっていた。
一路白頭ニ到ル――。
誰が何と言おうと、白髪頭になるまで自分の信念を貫き通す――そんな意味である。
U君の男くさく骨っぽい生涯をふりかえった時、白髪頭の風貌と相俟って、
キリスト者留岡幸助の座右の銘がふと頭に浮かんだ。
ウッちゃん、あんたがいないとひどく淋しいよ。
あっちでは仇敵だったO女史とはくれぐれも仲良くしてね。
そのうちイト◇のじっちゃんとかキタ◎◆のババアが会いに行くだろうから、
もうしばらく辛抱してくれ。
おれ? おれはまだ飲み足りないから、もうしばらく娑婆にいるよ。
迷わず成仏してくれ。合掌。
←This One Thing I Do !
留岡はこれを「一路白頭ニ到ル」と訳しました。
〝われ、この一事を努む〟
いい言葉ですね。
2 件のコメント:
ROUさん、
こんばんは。
本文後のリアクション項目に「おもしろい」しかないのは、面白くないです。
合掌・・・
NICK様
朝に死に、夕に生るゝならひ、ただ水の泡
にぞ似たりける。不知、生れ死ぬる人、
いづかたより来たりて、いづかたへか去る――
『方丈記』巻頭の一節を引いてみました。
(われら)よどみに浮かぶ泡沫は、
かつ消えかつ結びて、
久しくとどまりたるためしなし。
諸行無常ですね、人の一生は。
近く「お別れの会」をやるそうですから、
にぎやかに送ってやりましょう。
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