2011年7月19日火曜日

冷やすんじゃない!

団地内のスーパー「サミット」に行ったら、
全国各地の地ビールを揃えた特別セールをやっていた。
店長が書いたとおぼしき謳い文句には、
キンキンに冷やして飲もう日本の地ビール!」とあった。
ウヘーッ、こりゃ、ダメだ。ちっともわかってないや。

この店の店長を初め日本人の多くは、ビールは
キンキンに冷やして飲むものだ、とハナから決めてかかっている。
しかし、広い世間には冷やして飲んではいけないビールだってある。

世界には60以上の[ビールスタイル]があるが、日本のビールは
ほとんどがピルスナーという1種類の範疇に収まっている
早い話、ほとんどの日本人はたった1種類のビールしか知らずに
短い生涯を終えてしまう。

ビールは大きく上面発酵ビールと下面発酵ビールに分けられる。
日本のビールは銘柄を問わず下面発酵酵母を使うのが主流で、
これがいわゆるキンキンに冷やして、すっきりした喉ごしを競うビール、
すなわちラガー(下面発酵ビールのこと)ということになる。

しかし中小零細の地ビールメーカーの多くはエールと呼ばれる
上面発酵ビールを造っている。イギリスやアイルランド、ベルギー
ビールの同類で、特徴はフルーティな香りとコクである。

下面発酵酵母は4~10℃で働き、上面発酵酵母は16~21℃で働く。
後者は13℃以下になると、自ら膜を張って冬眠状態に入ってしまう。

エールをおいしく飲むコツは、キンキンに冷やすという愚を犯さぬことだ。
グラスも冷やさず、常温よりやや低目の温度でゆっくりチビチビと飲む。
〝ゴクゴク、プファーッ!〟はビアガーデンで飲むラガーの世界で、
エールはおちょぼ口で噛むようにして啜る。あのヌメッとした舌ざわりは
滋養のある〝液状ごはん〟を胃袋に流し込む、という感覚だろうか。

世界にはさまざまなビールがある。アルコール度数13%なんていうのもあるし、
サミュエル・アダムス・トリプルボックというアメリカのラガービールは
17.5%もある。ワインよりも度数が高いのだ。色は真っ黒で泡も立たず
ドロリとしていて、まるで紹興酒の古酒のような味わいだ。

ラガーに慣れた舌にはエールは〝変なビール〟に映るかもしれないが、
ラガービールしか知らない日本人こそ、世界標準からすれば
〝変な人たち〟なのだ。

サミットの店長には気の毒だが、「キンキンに冷やして飲もう」
などと謳っている限り、地ビールは売れず、ファンも増えないだろう。
冷やしたエールはふつうのラガーと変わらず、飲んだ人は割高感
(ラガービールに比べ3~4割高)だけを感じてしまうからだ。

地ビールなら「よなよなエール」や「常陸野ホワイトエール」、
銀河高原ビール」といった銘柄が好きだ。蒸し暑い日本の夏には、
キンキンに冷やしたラガーが似合うが、たまにはブランデー代わりに常温の
エールを味わってもらいたい。日本で一番売れているという「Toriaezu-beer」
とは違った世界の存在に気づき、きっと虜になってしまうだろう。


←日本の地ビールはキンキンに
冷やさないこと。ヌルッとした喉ごし
を堪能してほしい。
おい、サミットの店長!
聞いてっか?

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