2013年4月22日月曜日

高倉健はダイコンなり

キネマ旬報によると笠智衆は名優なのだという。あんなもの、なにが名優なものかと
ボクなんか大根役者の最たるものと思っているが、あの死ぬまで消えなかった熊本なまりと
朴訥な演技を愛するファンは多い。

「不器用ですから」と恥ずかしそうにつぶやく高倉健も名優の一人に数えられている。
ただ黙って木偶のように突っ立っているだけの男の、いったいどこが名優なのだと、
これまた一言イヤミを言ってやりたいのだが、健さんファンは圧倒的で、多勢に無勢、
数の勢いでむりやり沈黙させられてしまう。で、ボクはそっとつぶやくのだ。
(どうひいき目に見たって、ダイコンだね、あの男は……)

さて怪優と呼ばれた三国連太郎が昇天した。昔は生国に二説あった。
鳥取といい、また群馬とも称していたのである。ボクの名付け親(?)である竹中労が、
「ところで、あんたの生国は鳥取? それとも群馬?」
と訊いたら、
「生まれたのは群馬じゃないんですか? 
なにぶん、そのときは赤ん坊だったから、まったく記憶にないんです」
とぼけた野郎である。

ひと呼んでキチガイ役者、また怪傑コジキ仮面。トップ屋・竹中労先生にいわせると、
《本人に会ってみて、タマゲちまったナ。幻滅を通りこして、悪い夢でも見てるンじゃないかと、
小生は目をこすったねエ。なるほど、超人にはちがいないが、なんともうすよごれた、
人間離れのしたバッチイ男ではあった》

三国の借金癖は有名で、いっこうにあらたまる気配はなかった。
《東映トップスター時代、ベンツに乗って撮影所にやってきながら、人の顔見れば
「五百円貸してください」というのが口癖。最近は千円に値上がりした》

名だたる借金魔の三国。あの六尺豊かなからだを縮こめ、恐縮したようなフリして
借金を踏み倒し、女のミサオを奪い、あとは野となれ山となれと、この世を斜めに
生きてきた――労先生はこう決めつけるのである。

悪い女に引っかかるだけではない。三国は金さえあれば古本を買ってしまう。
当時、映画界では、殿山泰司と一、二を争う読書家だった。それはまあけっこうなのだが、
経済観念ゼロ。おそらくつましくも賢い女房殿(何番目の?)がいなかったら、
詐欺罪か無銭飲食でムショ入りしていただろう、と陰ではしきりと囁かれていた。

一方、健さんは三国とは対照的で、実生活ではごく平凡なマジメ人間。
礼儀正しく、勤倹の精神に長け、飲む打つ買うにとんと縁がない。
ようするに、ツマラナイ人である。朴念仁、石部金吉、カナボトケなのである。
おまけに大の無口。余計なことも肝心なこともしゃべらない》(竹中労)

学園紛争華やかなりし時代、健さん扮するマジメヤクザ(?)は、
ゲバルト学生のアイドルだった。
  ♪ とめてくれるなおっ母さん、背中(せな)じゃ銀杏が泣いてるぜ
ああ、男・東大どこへ行く。

ところがマジメヤクザの健さん、任侠映画が低俗だからと、ヤクザを捨て、
ただのマジメ人間になっちゃった。そして柄にもなく芸術づいちゃった。
労先生は言っとる。
俳優にとって最も自戒すべきは、不知半解に芸術づくことだ》と。
《ヤクザ映画は無頼を描くがゆえに低俗なのではなく、
無頼を描き切れぬがゆえに低俗なのである》

好いた女房に三行半を突きつけ、長脇差(ドス)をのみ、
義理が重たい男の世界に生きんとするマジメヤクザの健兄ィ。
スクリーンではファナティックな人斬りを演じ、
それなりにサマになっていたものだが、
芸術路線に転じてからの健さんは単なる木偶(でく)に成り下がり、
かつての精彩はみじんもない。

ボクは寅さんに生き寅さんに死んだ渥美清こそ役者のホマレだと思っている。
ああ役者たちよ、まちがっても芸術家のマネだけはしないでくれ!
なに? 健さんと吉永小百合の悪口は映画界のタブー? そんなもン、知らんがな。

仄聞(そくぶん)するに、健さんの人柄はとってもいいという。男が惚れる快男児だともいう。
しかし演技の質と人となりは別。この際だ、何度でも言ってしまおう、
人物は第一級かもしれない。が、高倉健は紛うかたなきダイコンである



←「自分、不器用ですから……」と健さん。
不器用すぎるよ。でもやっぱカッコいいな。








 

8 件のコメント:

なごり雪 さんのコメント...

嶋中楼さま

ボクは浪花 千栄子さまが好きで好で、、、

三十年来惚れてます。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

なごり雪様

浪花千栄子のファンだとは、
相変わらず変わった趣味だね。

浪花千栄子というと、
オロナイン軟膏のコマーシャルに出ていた
おばはんだけど、
ボクのイメージとしては
お歯黒を塗ったにぎやかな大阪のおばはん
という感じしかないな。

しかし、あなたはしみじみ変わってるね。
あのお歯黒バアさんに惚れてるとは。
稀代のアンティーク好きだとは聞いてるけど、
アンティークでポンコツのバアさん
(加藤嘉と同様、彼女の若い頃を知りません)
まで好きだとは知りませんでした。

死ぬまで惚れ抜いてください。

帰山人 さんのコメント...

労師、ごもっともです。
もっとも、私は三船や仲代もダイコンだと思っています。
殿山泰司は、役者のホマレを超えて珈琲界でもホマレ。
ブキヨウな高倉健よりもブキミな殿山泰司たれ…
私も早く「自分は…ブキミですから」と言えるように
なりたいものです。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

帰山人様

仲代達也は正真正銘のダイコンです。
無名塾なんぞを主宰してますが、
あのギョロ目のクサい演技は
まったくいただけません。

『影武者』でも、もし勝新と黒沢が
ケンカしてなかったら、もっと傑作
になっていたかもしれません。
仲代はいかにも芝居してるって感じで、
なんか大仰なんですよね。見得を切るところは
映画俳優より歌舞伎役者のほうが似合いかも。

殿山さんとコーヒーとの関係は寡聞にして
知りません。おせーてください、帰山人閣下。

帰山人 さんのコメント...

え?労師、私の「コーヒー・ポルノ」を
ご覧になっていないのですか?
…やれんのう。
http://kisanjin.blog73.fc2.com/blog-entry-346.html

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

帰山人様

なるほど、そういうことか。
恥ずかしながら殿山泰司の本は一冊も
読んでない。

で、遅ればせながら『JAMJAM日記』を
さっきアマゾンに注文しときました。

殿山さんはジャズとミステリー、そして
ヒーコーが好きだったんですね。
新宿の「DUG」とか「木馬」はよく通いました。懐かしいなあァ。

ミステリーは好きじゃないけど、
ジャズは好き。
特にドルフィーやミンガスが大好物です。
畸人好きは相変わらずです(笑)。

Nick's Bar さんのコメント...

ROUさん、こんにちは。

難しいことは良くわかりませんが、ROUさんは自分に似てる人がお嫌いなような気がいたしますです。

それが私の偽らざる感想でございます。


あ、それはそうと、先日はうちの奥がおせわになりました。


蛇足ですが浪花千栄子さんの本名は「ナンコウキクヨ」さんといって、それを聞いた大正製薬の社長さんがCMに抜擢したそうです。(ホント)

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

NICK様

浪花千栄子の本名は「軟膏効くの?ナンコクキクノ」でした。効くよと断定していなくて、
ほんとうに効くのかしら、と疑いを抱いている。

それにしても、どーでもいいよーな情報には詳しいね。

高倉健も笠智衆も近親憎悪ってか?
容姿は健さんそっくり(みんなそう言う)
だけど、御前さまには似てないぞ。

NICKさんはつむじ曲がりのところが
ボクにそっくり。でもボクはNICKさんの
こと、好いちょるけんね。
近親憎悪は当たってないね。