2010年11月13日土曜日

やきとんの丸かじり

唐突に、「東海林さだおのエッセイが好きなんです」
と居酒屋でやきとんを頬ばりながらボソリと呟いた。
やきとんより豚肉のオレンジソテーのほうが似合いそうな、
うら若き女性編集者のHさんである。

実は僕も好きなんだ、と同意したら、
「好きな作家のベストワンが、東海林さんなんです」
と言って恥ずかしそうに頬を赤らめた。

ショージ君は『タンマ君』などの漫画で知られるが、
大変な文章家でもあって、『タコの丸かじり』や
『キャベツの丸かじり』など、いわゆる〝丸かじりシリーズ〟
で多くのファンを持っている。彼の文章には独特なニオイがある。
たとえばこんな感じだ……。

 《牛丼屋に於いては、元気は禁物である。陽気もいけない。
 店内の空気になじまない。意気消沈、これが牛丼屋に於ける
 客の基本姿勢である。これがまた、牛丼にはよく似合う。
 意気消沈して、ガックリ肩など落として投げやりに食べると牛丼はおいしい。
 そのほうが格好もいい……》(『タコの丸かじり』)

Hさんはショージ君の文章に惚れるあまり、さかんに筆写したという。
文章の息づかいやリズム、間合い、機微といったものを自分の中に
取りこむためである。

ショージ君の文章はあまりに平易なため、うっかりすると
簡単にマネできそうな錯覚に陥りがちだが、実際は、
「書けるモンなら書いてみろ!」といった気味合いのもので、
とてもじゃないけど、素人が太刀打ちできるような代物ではない。

昨今、ブログや携帯メールの普及で、巷には一億総文章家になった
ような気分が横溢している。が、カネのとれる文章を書くというのは、
これはこれでなかなか骨の折れる仕事なのである。
そのことはショージ君の文章を筆写してみればすぐわかる。
一見、素人臭く見えるところがクセモノなのだ。

ショージ君の本はぜ~んぶ持ってます、という熱烈ファンのHさん。
「友達に言ってもバカにされるだけ」と、久しく隠れファンに甘んじていたが、
ようやく同好の士(僕のことです)とめぐり会い、溜飲を下げたようだ。

冒頭の〝頬を赤らめた〟理由は、つまりそういうことで、
ダンディなおじさん(これも僕のことです)を前についポーッとなってしまった、
というわけではもちろんない。

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

某日某牛丼店に早速出かけて来ました。本部の担当者や店長が東海林さだおの”牛丼店考”を読んでいたものか店内は明るいとは言えず、お客さんもただ黙々と丼に噛り付いていました。牛鍋丼、お新香、味噌汁付きで400円。ワン・コインでお釣が貰えるのは
嬉しかったのですが、なんか侘しい気もして、店を出ました。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

匿名様
侘びしくていいのです。
うつむき加減にため息をつきながら
食べると牛丼はおいしい、
とショージ君は言ってます。

ひたすら淡々と食べる。
《世間一般に、「ひたたん食い」と
呼ばれている食べ方が牛丼食いの
極意である》
とショージ君は曰うのです。

ところで僕は吉野家の牛丼しか食べません。
他店の牛丼は目もくれない。
惚れると一途なのです。
しかし最近は他店に押され、
吉野家が不調だといいます。
また牛丼屋の雰囲気が妙に明るくなったのも
気になるところです。

不穏な空気が漂ってこそ牛丼屋であります。
明るく健康的な牛丼屋など牛丼屋ではない、
とショージ君なら憤るだろうな。

匿名 さんのコメント...

過日の”ヒラメ顔が好き”のコメントの投稿で”今の日本の政治家のユーモア・ウイットの欠如”をやり取りしましたが、今朝偶々朝日イブニング・ニュースで”韓国の外交には日本がかけているすべてのものがある”の記事を読み、”やきとんの丸かじり”のブログと関係がありませんが紹介させて貰います:

*******************
G-20の会議中に韓国の大統領が巧みな話術を披露しました。リー大統領がフランスの
サルコジ大統領と会った時に、

サルコジ大統領: リー大統領、貴方はお会いするたびに若くなっていますね。

りー大統領:それはね、フランスの化粧品を
使うからですよ。

リー大統領は更に素早く付け加えました:

”貴方のお国の化粧品の輸入はEUとのFTA(自由貿易契約)が実施されたらもっと
増えますよ。”
*******************

上手いもんですね! 大統領がサラリと国を売るセールスマンになるのですから。見事なもんです。それにひきかえ”戦略的互恵関係の構築を目指す”なんて何のことやらさっぱり判りません。嗚呼!!!!!

 

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

匿名様
たしかに「戦略的互恵関係の構築」
だなんて、何のことやら
さっぱりわかりませんね。
八っつぁん熊さんにも分かるような
漢字をあまり使わない、気の利いた
コトバはないもんでしょうかね。

とにかく国会答弁などを聴いてると、
日本の政治家のコトバの貧しさ、
ユーモア感覚の欠如、
貧寒たるliberal artsの惨状には、
目を覆わしめるものがあります。

自衛隊は「暴力装置」だという。
野党は鬼の首でも取ったように
はしゃいでいるけど、
軍隊や警察を〝暴力装置〟と呼ぶのは、
社会学の常識ではないか。

政治家という種族は本を読まないのかね?
マックス・ウェーバー然り、レーニン然り。
「暴力装置」というコトバはすでに
市民権を得たコトバではないですか。
何を今さら騒ぐのか。

ことほどさように、政治家もマスコミも
そろって勉強不足です。おとといおいで!
と言いたくなります。