2010年5月6日木曜日

墓場が一番

4日、プール仲間のOさんと下町散歩。
雑司ヶ谷霊園を皮切りにチンチン電車の
荒川線に乗って巣鴨、さらには谷中墓地、
ツツジが満開の根津神社(左写真)と、年寄り
(俺たちのことだ)が好みそうなところをグルリと回ってきた。

雑司ヶ谷霊園では漱石や荷風といった文人たちの
墓参り。ついでに『龍馬伝』に出てくるジョン万次郎
の墓にも掌を合わせてきた。

天気がよかったせいか、どこも行楽客であふれ、
とりわけ巣鴨地蔵通り商店街は、
どこから湧き出てきたのかと思えるくらい
年寄りたちであふれかえっていた。

その熱気ムンムンの群衆にまぎれ込むと、
けっこうすんなりと風景に溶け込んでいるじゃないの、
と認識を新たにする。つまり、どう転んだって、
俺たちは年寄りそのものだってことがよくわかった。


墓場巡りや巣鴨詣でを好むのは、たぶん不快指数が低いためだろう、と思っている。
僕にとって不快指数が最も高まるのは、若者たちの話し言葉を耳にした時だ。
原節子や東山千栄子を今さら引っぱり出すのもなんだが、彼女たちが操った、
耳に心地よい美しい日本語を少しはマネてほしい、と耳障りで下品な
言葉を吐き散らす若者たちを前に、つい説教を垂れたくなってしまう。
いやはや全身が小言幸兵衛と化してしまうのだ。

だから互いに不愉快にならないようにと、僕は彼らが群がる渋谷や原宿
といった街には、用心深く近づかないようにしてきた。なにしろ腰パンをはいた
若者(バカモノともいう)が視界に入ってきただけで、心悸が昂ぶってしまうのだから、
若者ぎらいは宿痾(しゅくあ)みたいなものだ。

ノーテンキなOさんは、そんな僕の気質を知ってか識らずか、
佃煮になりそうな年寄りたちを視界いっぱいに広げて見せてくれた。
本人は何を勘違いしているのか、色気も水気もあるホルモンたっぷりの女性に、
まだ未練がありそうなそぶりだったが、帰宅後にケータイ写真に写った自分の姿
を見て、「ああ、俺もジジババの原宿のクチだった」と、ようやく現実に気づいてくれたようだ。

あの日、谷中霊園内の天王寺駐在所(山手線の内側で唯一警察官家族が
住み込んでいる派出所)の前でウロウロしてたら、当の警察官が自転車でご帰還、
やや不審顔で「何かご用ですか?」と職質(俺たち人相悪いもんね)。

Oさんがニッコリ笑って、
「いや、実は佐々木譲さんの『警察の血』の中に、谷中の天王寺駐在所
だ出てきますでしょ?……で、どんな人たちが住んでいらっしゃるのかなァ、
と話していたところに、ちょうどご本人がお見えになったという次第で(笑)」

人の良さそうな駐在さんは、幸いその本の読者だったようで、
僕たちの不躾な質問にも快く答えてくれた。いや、それどころか、
「花見の季節は深夜まで乱痴気騒ぎでしょ、家族が眠れなくてね……」
などとグチまで飛び出す始末で、すっかり意気投合。
勤務中だっただろうに、しっかり話し込んでしまった。

雑司ヶ谷も谷中もあふれんばかりの緑で、つい墓地にいることを忘れてしまう。
やっぱり行楽は墓場にかぎりますな。







 

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