2015年1月6日火曜日

愛想も小想も尽きはてて

気のおけない友と久しぶりに痛飲し、度が過ぎてゲロゲロに。
翌日は完全にダウンして、一日中臥所(ふしど)にぶっ倒れておりました。
この可哀想なおじさんも〝昭和殉難者〟に数えられるのでしょうか。
死んだら靖國に祀ってもらえるのでしょうか。

還暦過ぎてもこのていたらく。人生から何も学んでいやしません。
女房は、「愛想も小想(こそ)も尽きはてました」てな顔をして
朝からそっぽを向いています。いやはや身の置きどころがありませぬ。

酒飲みには醜態がつきものです。思い出すだに顔から火が出そうな
「恥ずかしきこと」が数知れずあります。その質と量の醜悪さときたら、
あのフーテンの寅さんでさえ尻尾を巻いて退散するほどです。

ボクの敬愛する小説家・石川淳も飲むとはげしく乱れました。
和漢用の膨大な知識に支えられた当代一の博学でありましたが、
どういうわけか酒が入ると狂ってしまうのです。

写真家・林忠彦の『文士の時代』には石川の酔態ぶりがこんなふうに描写されています。
《飲んでいるときのすさまじさは、酔うにしたがってバカヤロウの連発で、
ちょっと今では見られない酔っぱらいでしたね。何か言うたびにバカヤロウと言うので、
数えてみたら、一晩に二十数回は言っていたように思います》

ある時なんか、宴会の最中にあんまりバカヤロウと怒鳴るもので、
仲間たちに簀巻きにされ、宴席からたたき出されたというエピソードもあります。

こんなハチャメチャな男ですが、夷齋先生(石川の号)による運筆の妙といったら、
当代並ぶものがありません。とりわけ『安吾のいる風景』と『敗荷落日』は追悼文中の
白眉とされております。

一箇の老人が死んだ……》で始まる『敗荷落日』は荷風散人に捧げた追悼の一文ですが、
そこに散りばめられた言葉の激越さは眼を疑わしめるほどです。
《年ふれば所詮これまた強弩の末のみ》とか《肉体の衰弱ではなくて、
精神の脱落だからである》とか、さらには、
《老荷風は曠野の哲人のように脈絡のないことばを発したのではなかった。
言行に脈絡があることはある。ただ、そのことがじつに小市民の痴愚であった》
と、容赦がありません。

最後は、
《日はすでに落ちた。もはや太陽のエネルギーと縁が切れたところの、
一箇の怠惰な老人の末路のごときには、わたしは一灯をささげるゆかりも無い
と冷たく突き放されます。

ああ、なんとカッコいい科白なのでしょう。
ボクがどれほど夷齋先生の文章に恋い焦がれているか……
酔余の戯れで「バカヤロウ」を連呼しようが、簀巻きにされておっぽり出されようが、
ボクは断固としてこの先生を守ってあげたい。

夷齋先生でさえあのザマなのです。
「小市民の痴愚」を代表するボクが、人前をはばからずゲロゲロやったとしても、
バチは当たらないでしょう……とまあ、夷齋先生をダシにして自己弁護に相務めている
わけですが、年初からこのザマではロクな年になりそうにありません。
みなさん、こんな性悪の酔っぱらいジジイですが、今年もよろしくお願いします。


←敬愛する夷齋先生こと石川淳。
見た目は紳士そのものですが、
酔うと「バカヤロウ!」と叫びだし、
はげしく乱れました











写真提供・文藝春秋









※追記
新年会を主催してくれたIさん、2次会につき合ってくれたYさん、
自称〝国粋主義者〟のFさん……みんなとっても〝変な人たち〟
ですが、ココロ優しき人ばかり。バカっ話につき合ってくれて
アリガトね。今年もヨロシク。

2 件のコメント:

木蘭 さんのコメント...

しまふくろうさま、
遅ればせながらあけましておめでとうございます。(*^^*)

あらま~
お酒は飲んでいる時は楽しいものですが、
飲みすぎはあとが辛いですね。(>_<)

私もその昔、飲みすぎて二日酔いになったことがあります。(^▽^;)

今は籠の鳥の身なので(大事に飼われるような鳥ではなく、籠に入った雀みたいなもんでしょうか(笑))、飲みすぎることがまずありません。

御一緒にいかがです?籠の鳥。(笑)

でもどうぞ体調に気を付けてお過ごし下さいね。(*^-^*)

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

木蘭様

新年明けましておめでとうございます。
好天が続いていますが、いかんせん寒い
ですね。籠の鳥さんも、やはり寒いのでしょうか。

おっしゃるとおり、飲み過ぎはいけませんね。今回はビール→日本酒→紹興酒→また
日本酒→ウヰスキー3種というスペシャルコースだったもので、目が回って動けなくなってしまいました。

二日酔いになると、
「もう金輪際、酒は飲まないぞォ!」
と堅く心に誓うのですが、夕方になると
すっかり忘れてしまい、またチビチビ
やりだしたりします。

酒飲みは意地汚いのです。

もし木蘭さんと一献傾ける機会がありましたら、厳しく自制し、最初から最後まで
紳士でいるように努力いたしますデス。

それでもダメでしたら、どうか潔く引導
を渡してやってください。

こんなバカじじいですが、
どうかお見捨てなく。
共に死んだら靖國で会いましょう(笑)。