2014年1月15日水曜日

メメント・モリ

昨日、30年来の友人が死んだ。
長女の同級生の父親で、保育園時代からのつき合いだった。
冗談ばかり言う明るい男で、団地の友人の中では古参の一人だった。

女房と死に顔を拝んできた。痩せさらばえ、骨と皮になっていた。
それでも安らかな顔をしていた。激しい痛みから解放され、ホッとしたのだろう。
〝サイレントキラー〟と呼ばれる恐ろしき膵臓ガンである。享年58。

ある作家は言っていた。《私たち人間には、ほぼ一定の容量が与えられている》と。
人が人生において歩く距離は、そう大した違いはないのではないか、と。
《速く、短時間で走るか。ゆっくり、長い時間をかけて歩くか》
それは各人の選択で、太く長く、という具合にはいかない。

「命長ければ恥多し」とボクは再三書いている。
しかし実際は、老醜をさらけ出しながらも、1日でも長く生きたいと
「生」に執着するに違いない。
同じ団地内に、もう一人末期ガンを宣告された友がいる。
「夏までもつかどうか……」と友は淋しげにつぶやき遠くを見つめた。

ボクは少なくとも言葉のプロを自任しているが、余命を宣告された友を
慰め励ます言葉を知らない。ただ黙ってそばにいてやることだけ。
出来ることはそれだけだ。言葉など無力この上ない。

では、人間としての理想の長寿とはどれくらいのものなのか。
「人間五十年 夢幻のごとくなり」とは謡曲「敦盛」の一節だが、
いまどき人生50年では誰も納得してはくれないだろう。
では60年か。いや、還暦をすぎた自分が言うのも何だが、
まだまだ物足りない。では、70年ならどうか。
それとも80年? いや90年ならどうか?

聞くところによると、宗教家はなべてみな長寿なのだという。
職業別の統計でも、宗教家が長生きのトップらしい。

たとえば浄土教では法然が80歳、親鸞が90歳、蓮如が85歳。
あの時代としては驚歎すべき長寿である。
読経が長寿の秘訣、という説もある。

念仏を含め読経は長時間の呼気(吐く息)で読み、一瞬の吸気で息を継ぐ。
「短く息を吸い、長く吐く」――これが腹式呼吸の基本中の基本だ。
食事も粗食を旨とし、フレンチだイタリアンだと贅沢なことはいわない。

「大いなるもの」に身をあずけてしまう、というのも長寿に〝効く〟らしい。
大いなるものとは、阿弥陀如来とか〝山の神〟とか(笑)、大方そのたぐいだろう。
ただし、全能の〝山の神〟でもガンには勝てないかもしれない。

ああ、友よ、愛する家族、そして年老いた母をおいて先立ってしまうのは、
さぞかし無念だっただろう。その胸中、察するに余りある。だから君の分まで
ボクが長生きしよう。君の無念をボクが代わりに晴らしてやろう。
そのことを、謹んでここに誓う。
合掌。





←亡くなった友は長野のりんご
農家の長男。発病してからも、
老母が独り住む実家へ毎週のように
通っていた。
「アップル殿下」を自称していた友よ、
安らかに眠りたまえ。
(写真はアップル殿下のりんご園)

2 件のコメント:

木蘭 さんのコメント...

しまふくろうさま、こんばんは。

お辛いお話ですね。
お悔やみ申し上げます。

人生最期の旅立ちの時、
お手伝いにあがる私ですが、
未だ慣れるということはありません。

「年老いたるは先立ち若きは留まる」というならばまだしも、
旅立たれる方の中には壮年、青年、
また子供の場合もあるからです。

いつでしたか火葬場に赴いた時、
30代半ばくらいの女性の写真が窯の前に飾られました。

その時、
「お願い!お母さんを焼かないで!」という叫び声が。

高校生くらいでしょうか、
泣き叫ぶ髪の長い女の子が親族と思われる人たちに連れていかれました。

お写真をもう一度見ると、
素敵な笑顔の、とても優しそうなお母様でした。

私もその場にいることがとても辛くなりました。


また他の葬儀の時、
メモリアルホールでとても小さな棺をみかけ胸が痛みました。

この世での生は、とても短かったのだなぁと。


この世に残ったものは、
悲しい現実をつきつけられます。

そしていつも、

私達は「生きていることは当たり前」のように思っているけれど、いつかは訪れる「死」がくるまで、「生」ある事を大切にしていかなければならない

とあらためて思うのです。


しまふくろうさま。
お身体を大切にして、ぜひそのお友達の分まで長生きして下さいね。



ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

木蘭様

こんばんは。

仰せのとおり、長生きするために「百薬の長」という般若湯をたっぷり飲んできました。今夜は仕事の打ち合わせのあとに、渋谷でプチ新年会。大好きなベルギービールを
心ゆくまで堪能してきました。

「お母さんを焼かないで!」
娘さんの気持ちは痛いほどわかります。
亡くなられたお母さん、まだお若いですものね。

歌手のちあきなおみはご亭主の郷鍈治が荼毘に付されるとき、「わたしも焼いて!」と叫んだそうです。

うちの女房だったら、
「ウェルダンでお願いします」
なんて言うんじゃないかしら(笑)。
ボク、深煎りが好きだから。

ボクの家系はガン系だから、
そんなに長生きはできないでしょう。
あの世に飲み屋はあるかしら。
艶っぽい女将はいるかしら。
そのことだけが心配です。