2013年9月15日日曜日

天上大風

例によって原稿書きに追われ、連休もヘチマもない。
昨日は朝5時起きしてひたすら書きまくった(←担当編集者の目を相当意識してるな)。
出来は部分的によかったりまあまあだったり。
一応、プロ」だから、わるいというのはない。あったら金輪際仕事なんて来ない。

9月いっぱいで1冊書き上げてくれ、と編集者からきついお達しが出ている。
まだ序盤戦のつもりでいたが、すでに月の半ばに来てしまった。
後がない。だんだん崖っぷちに追い込まれていく。

自分で言うのも何だが、崖っぷちの絶体絶命というのはきらいじゃない
むしろ異常にアドレナリンが出てハイな状態が続くから、見た目はルンルンと明るく元気だ。
しかし、いつもあるところに色鉛筆や資料、辞書の類がないと神経が狂い始め、
原稿の中身も微妙に狂いが生じてくる。四六時中、戦闘モードで張りつめているため、
わずか1ミリ1センチのズレや狂いが許せないのだ。

書き仕事は終日机にへばりついている。
もともと腰痛持ちだから長時間の座り仕事は拷問みたいなものだが、
ここ数カ月はなんとか持ちこたえていた。ところが今朝、重い植木鉢を持ち上げたら
グギッとやってしまった。やばい、かなりやばい。

で、さっそくコルセット(←母の遺品です)を腰に巻いてパソコンに向かっている。
ムリはできないので、そおっと腰かけ、そおっと立ち上がる。
膝もいかれているので、高血圧の薬とともにグルコサミンを服む。

外は嵐のような雨と風。台風18号が接近しているという。
「台風って、どうして日本ばかり狙って来るんだろ。大陸は晴れてるのにね。
日本列島が防波堤の役割を果たしてるってわけか。損な役回りね……」
女房が新聞に目をやりながらボソッとつぶやいた。
たしかに損な役回りだ。支那や韓国から迷惑料を徴ってやりたくなる。

本日午後、長女は10日間の休暇をもらって南米ペルーに旅立つ。
ついこの間、エジプトやスペインに行ってきたばかりなのに、
芭蕉じゃないけど、《片雲の風に誘われて 漂泊の思ひやまず……》
といったところか。トルコでの日本人女子大生殺人事件があったばかりだから、
父親としては無事帰国するまで気が気ではない。なにしろ鉄砲玉みたいな娘で、
小田実の『何でも見てやろう』のオンナ版なのだから始末にわるい。
あのデラシネみたいな漂泊癖、いったい誰に似たんだろう。

書物の中で世界中を飛び回り、時空間をも超えて過去や未来に行ったり来たり
しているボクとしては、「百聞は一見に如かず」という諺を頭では理解しているが、
正直、それほど信じてはいない。

標高2280メートル、アンデス山麓にあるという世界遺産のマチュピチュ遺跡。
「あのあたりをグルッと回ってきます」と娘はあっけらかーんと言ってたけど、
ボクはそんなものを見るより、良寛禅師の『天上大風』の書を眺めながら、
天空高く舞い上がった童たちの凧を心に思い描いていたほうがいい。
自分もまた凧になって吹かれているような大らかな気分になってくる。

ボクも女房もどっちかというと出不精なタイプだ。
半径500メートル以内の生活圏で生きることに何の抵抗もない。
5大陸を制した長女はいったい、誰の血筋を引いたのだろう。






←良寛禅師の天真爛漫な書。
いいですねえ、風がぴゅーぴゅー
吹きわたる感じがします

6 件のコメント:

田舎者 さんのコメント...

嶋中労さま、こんにちは!

良寛さんの“天上大風”を観て
紀野一義先生の書かれた《法華経の風光》の
一節を思い出し、読み返してみました。

岡潔先生は、良寛の書いた「天上大風」という字
を見た時に、「一目みて、何ともい言いあらわし
ようのない気がした」そうである。・・・
なるほどこれはほんものだと思ったので、坐り直
してみた。見たところ、昔の小学生の書いたよう
な字であるのに、じっと見ていると、「不思議に
清々しく、広々とした気持ちになった」という。
・・・
翌朝もう一度みたら、実際に風が、右から左に吹
いていることが分かった。字がその方向の風に吹
かれている。書いた良寛はその事を知らなかった
と思います、と岡先生は言っている。・・・

天上大風が日本を始め世界各地に吹くことを願っています。ただ、解ろうとしない国、日本を非難
することでしか国を維持できない国も有りますが
・・・

田舎百姓

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

田舎者様

こんにちは。

たしかに右から左に風が吹いているように
感じられますね。ボクも気づかなかった。

ボクは書画に疎く、良寛の書に格別造詣が
あるわけではありません。ただこの数週間、
仕事の合間を縫って良寛関連の書を数冊読んでいます。

良寛の書を臭みがあっていや、という人もいますが、ボクには分かりません。ただ何となく好きなんです。

貞心尼との恋も人間らしくていいですね。
貞心尼は23歳の女盛りに剃髪し、僧門に入りました。

  琴詩酒の伴はみなわれをなげうち
  雪月花の時 もっとも君を憶う

これは白楽天の詩です。

ついでにこんな歌も。
  君看よや双眼の色 
  語らざれば憂いなきに似たり

田舎者 さんのコメント...

嶋中労さま、こんばんは!

君看双眼色 不語似無憂

良寛さんが好んで書いた古語だそうですが
近代では、芥川龍之介が好んで書いたそう
です。ただ、良寛さんと芥川龍之介との
違いは、人生を全うした人と、自殺した人と
の差があるそうです。

これもまた、本の中からの抜粋ですが・・・

歴史は嘘をつきません、曲げた国は滅びる
だけです。

酔った田舎百姓

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

田舎者様

日本の隣人には歴史を「プロパガンダ」と考える国と「ファンタジー」と考える国があります。「ヒストリー」ではないのですね。

歴史は現代の為政者が自在に作りかえていい、
と考える国が隣人だと実にやっかいです。特に
反目し合っている場合は最悪です。

歴史を冒涜すると過去の亡霊たちから必ず
反撃されます。彼らはご先祖様を辱めていることに気づいていないのです。

歴史を曲げた国は滅びる――田舎者様のおっしゃるとおりだと思います。すでに滅びの兆しは出ております。

木蘭 さんのコメント...

しまふくろうさま、こんばんは。(*^^*)

貞心尼とは似ても似つかぬ、
おっちょこちょいの木蘭でございます。


あらま。腰を痛めてしまったのですね。(>_<)

どうぞお大事になさって下さいませ。

腰は「月(にくづき)」「要」と書くくらいですから、体の中でも要の部分。

完治されましたら、うんと大切になさってくださいね。(*^^*)

良寛さまは曹洞宗のご僧侶ということは知っていましたが、他のことはよく存じておりませんでした。

パソコンで調べてみたところ、
辞世の句が「散る桜 残る桜も 散る桜」という事を知り、たいそう驚きました。

私は、はじめ遊就館に展示してある英霊の遺書などの中に書かれていたのでこの句を知りましたから。


・・・たまには凧揚げなんかもしてみたいものですね。

今度のお正月にトライしてみようかしら。(*^^*)

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

木蘭様

おはようございます。

良寛はおもしろいですね。
貞心尼の前で、

 うらを見せおもてをみせてちるもみぢ

なんていう歌を詠んでいる。

こだわりがないからか、曹洞宗の禅僧なのに、
眠っている寺は浄土真宗の隆泉寺。
他力派の寺なんですね。

宗旨などにまったくこだわっておりません。
ボーダーレスの自由人です。

ボクもうらを見せ、おもてをみせて生きたい。
そして潔く散りたい。

『おやじの世直し』読んでくれてありがとう。
あの肩を怒らせた噛みつき亀みたいな性格は、
いまもまったく変わっておりません。進歩がないんです。

良寛みたいな融通無碍の境地など夢のまた夢。
自分なりにぼちぼちやっていきますので、
よろしくお付き合いのほどを。