2013年5月3日金曜日

空手と料理人

相も変わらぬ「いじめ」「体罰」「セクハラ」「パワハラ」が紙面を賑わせている。

    浜の真砂は尽きるとも 世に〝いじめ〟の種は尽きまじ  (石川5右衛門

およそ生きとし生けるものに〝いじめ〟はつきものである。
たとえばあの小心な鳩。日本の首相にも〝鳩〟の字を冠した暗愚な男がいたけれど、
鳩のいじめは執拗で残酷だという。徹底的に相手の首筋を狙ってつつき続け、
場合によっては死ぬまでやる。平和の象徴などとは、ブラックジョークもいいとこなのだ。

だからというわけではないが、ボクはあえて提言したい。役立たずのいじめ防止策などを
必死で考えるより、「いじめに耐え、反撃する」手立てを考えたほうがいいと
親なり学校が戦い方の極意、ケンカ殺法を伝授してやったほうが話が早いのだ。

それでも死ぬしかないと決断したのなら、それも運命だろう。
だが、どうせ死ぬのならいたずらに学校やマンションから飛び降りるのではなく、
いじめっ子の家の玄関口で、これ見よがしに首をくくったほうがいい。

ボクも昔はいじめられっ子の一人で、誰にも相談できず悩んだことがあった。
でも「自殺」の二字はついに思い浮かぶことはなかった。日夜考えていたのは、
どうすれば相手をボコボコにできるか――ただその一点であった。

単純なボクはケンカに勝つ極意は、物理的なパワーと蛮勇だと確信した。
専門書と筋肉強化器具(ダンベルなど筋トレ用器具)を買い込み、
自分に合ったプランを立て、肉体と精神を改造する鍛錬を開始した。
ボクは日に日に筋肉マッチョとなっていった。
それと並行して片っ端から本を貪り読み、
精神的にも相手のオツムを凌駕できるほどまで成長した。
そして運命の日、ボクはあっけなく宿敵のいじめっ子を殴り飛ばし、組み敷いた。
以来、いじめは熄()んだ。

相撲や柔道と、体育会系スポーツのいじめや暴力が世間を騒がせている。
その内実については体育会系出身のボクは骨身に滲みてわかっている。
ところ変わって、ここに紹介するのは料理業界のいじめである。

ボクは長年、料理業界を取材してきた。カリスマシェフだとか〝鉄人〟と呼ばれる人たちも
個人的によく知っている。彼らの若き修業時代をつづった記事を雑誌に連載していたこと
もある。料理業界のいじめは日本に限ったことではない。フランスでもイタリアでも事情は同じ。
アプランティ(見習い)時代は悲惨そのもので、いきなり包丁や焼けたフライパンが飛んできたり、
階段から突き落とされたりする。

「マキシム」や「トロワグロ」といった名だたるレストランでソーシエ(厨房内の№1で、ソース係
までのぼりつめるような日本人は、なぜか空手や合気道の有段者が多かった。
ある有名な料理人は、アプランティ時代、アルバイトで酒場の用心棒をやっていた。
酒癖の悪い暴れん坊を腕ずくで外へおっぽり出すのだ。
たまたま取材相手がそうだっただけなのかもしれないが、会う人間がことごとく
空手つかいばかりなので、「料理人と空手との関係」について調べたらけっこう面白い
記事が書けそうだ、といっとき考えたことがある。

料理人に空手つかいが多いのは、たぶん厨房内の〝いじめ〟と関係しているのだろう。
先輩たちから繰り出される執拗ないじめ。そのいじめに対抗する自衛本能がおそらく
格闘技の習得に向かわせるのだと思う。

カリスマシェフの一人、「オテル・ドゥ・M」のMシェフは、先年、傷害容疑で書類送検された。
従業員の顔面を殴り、受話器を投げつけ、顔面打撲のケガを負わせた容疑である。
しかしこの程度の暴力は業界内では常識で、フライパンで殴ったり熱湯をかけたりするのも
日常茶飯事だ。ひどいのになると、フライヤーからお玉で熱した油をひょいとすくい、
何食わぬ顔でぶっかける輩もいる。

有名シェフたちを集めた座談会などを催すと、
みな、そうしたいじめや暴力をむしろ自慢気に披露したりする。
どれほど相手にダメージを与えたか、強烈であればあるほど称讃されるような
〝いじめ自慢〟が料理人たちの会話の中にごくふつうに出てくる。
そのことを誰もとがめないし、むしろ座が和むとばかり、みな面白がって語る風がある。
徒弟制の悪しき伝統なのか、今ならマスコミの好餌となりそうな話がてんこ盛りだ。

特にラーメン業界などには暴力がつきもので、
本気で実態調査をすれば〝縄付き〟がいくらでも出てくるだろう。

ボクより料理業界に深く関わっているベテラン記者の女房は、
そうした裏話の宝庫で、ビックリ仰天するようなスキャンダルを
いっぱい見聞きしている。「いっそ告発記事でも書いたら?」と、
ボクがいくらそそのかしても、
「こればっかりは口が裂けても言えないね」
とガードはすこぶる堅い。
友人たちでもあるシェフたちを〝売る〟わけにはいかないのだ。

徒弟制度の良いところはもちろんある。
が、悪しき側面が多いのもまた事実。
いじめや暴力を〝愛のムチ〟と許容してきた世間にも責任の一端はある。
「料理の極意? そう、愛情をもって作ることでしょうか」
にこやかにこう語るカリスマシェフの厨房では、
皮肉にも暴力が常態化していた。
セレブが集うお店だと? ケッ、笑わせやがる。









8 件のコメント:

帰山人 さんのコメント...

労師、‘笑わせやがる’料理人のいる店ほど、
「暴力追放協力店」とか標語が店頭に貼ってありますナ。
どうせならば「殴ってナンボの店」とか掲げていれば、
足繁く通ってあげるのに…ときには店を潰しに…

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

帰山人様

〝笑わせやがる〟カリスマシェフの店が、
かつてテレビでキッチンの様子を見せてくれた
ことがあります。

シェフは相変わらず眉間に皺を寄せ、
終始イラついたようすで、出来損ない
の弟子たちを怒鳴りとばしていました。

そして直に持ったらヤケドするような
熱々の皿をむりやり持たせ、
客席に運ばせていました。

心頭を滅却すれば、火もまた涼し――。
カリスマちゃんはそんなたわごとを言って
澄ましていましたが、熱いものはやっぱ熱いよねェ。

ボクはこのカリスマちゃんを見て、
(バッカじゃないの、この田舎もン)
と思いました。北海道増毛町出身だから
田舎もの、というわけではありません。
彼の精神そのものが田舎もンなのです。

以来、彼の店では食事をしていません。
市ヶ谷の「ビストロ・サカナザ」の頃の
彼は初々しくてよかったのにな。

カリスマなどと褒めそやされると、
人間、ダメになっちゃうね。
お互い、気をつけようね。
関係ねえか、俺たちは。

なごり雪 さんのコメント...

嶋中 労さま

もしかして、
北海道の素材にこだわり、
噴火湾の帆立で数度食中毒出した店でしょ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

昔々、当時の「料理◎国」の編集長のK 女史がボクに言いました。
「料理人なんて所詮バカですから」って。
毎日の取材で思うコトがあったのでしょうね。

でも言い返しましたボク。

「テメェ、それでメシ食ってるんだろ」って。

出世して、先生、カリスマシェフ、編集長・・・

見失いますよ、
「人間だもぉ・・・」(ゲッ)

貴方とボクだけだよ。。。(真っ当は)

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

なごり雪様

菜々緒ちゃんの美脚と食い込みが脳裏から
離れず、熟睡できません。あの悩殺ポーズ、
年寄りには毒気が強すぎます。

さてカリスマ何某の件ですが、
最近、「カリスマ何とか」とか「何とかソムリエ」ってゆーの、多いよね。

そういえば貴殿も〝カリスマ職人〟とか
「豆腐ソムリエ」なんて呼ばれてるじゃないの。ボクも何度か取材させてもらったけど、
たしかにあんたは至極まっとうだわさ。

青山二郎だとか白州正子とか、
若いうちから渋好みだったもンね。

そうそう、「江戸っ子の渋好み」って言葉があるけど、ボクら小江戸っ子(川越生まれ)だって、歴とした渋好みなんだよね。

なごり雪さんのお店も、何を隠そう
セレブ御用達の店。あんまり出世しないでね。

Nick's Bar さんのコメント...

ROUさん、こんにちは。

「人柄は味に出るのか?」
「偉大なる画家は人格者か?」

どっちもねーだろうなーって気がするんですがね。

ま、何をもって人格者と呼ぶか、よい人柄とするかという根本の問いに答えてからでなければ、ほんとの答えは出ないんだろうけどさ。

ま、本能的にというか、そうは言ったってさっていうレベルでいうなら、「そんなことねーだろーなぁ」ってことに落ち着くわけで。

真っ当っちゅうのも相当曲者ですな。

あー、それはそうと、冷奴の美味しい季節になってきましたねぇ。ひとっ走り行ってこようとおもえど・・・、場所が判らなくなってしまっていまして。また、教えてね。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

NICK様
お久しぶり。
ずいぶんお見限りじゃないのさ。

来る5月19日のジャムセッションに向け、
毎日猛練習しているんだろうね。
メジャーデビューなんだから、せいぜい
ぐぁんぶぁってください。
ボクも客席で〝観戦〟してます。

さて作品と作者の人格は別物か、
という話だけど、やっぱ別物ではないでしょうかね。

NICKさんのピアノ演奏はすばらしいけど、
「NICK=人格者」だという話はついぞ聞いたことがないし(ありえねェーだろ、という声がしきりです)……

キャラクターは自然と表出されるだろうけど、
人格者か否かは投影されないと思うんですがね。

ひとっ走りって、川越まで?
川越駅の近くにひっそりとありますよ。

「なごり雪 川越」でググってください。

Nick's Bar さんのコメント...

ROUさん、こんにちは。

5月19日はジャムセッションじゃないですよ。れっきとしたLiveでございます。(ま、どっちでもいいんですけど)

恐れ入りました。場所はほぼ把握しました。ショートツーリングがてら土曜日にでも行ってみようかと。(一緒に行く?)

しかし、ROU師をして「ググってください」と言わしめる世になったのですねぇ。最初は何か「ぐぐっと」来るものでもあるのかと思ってしまいましたですよ。


「ウェブで検索してください」と言ってしまう非人格者より

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

NICK様

若ぶってちょっと使っただけ。
還暦過ぎが使ってはいけないという法はないからね。

もともと流行に弱いもんだから、
陰で「さ入れ言葉」とか「ら抜き言葉」とか
使ってんの。

土曜日にツーリングねぇ。
久しぶりにタンデムして肌を合わせてみる?

そして美味しいもの食べようっか。
あとでまた連絡する。