20年も料理を作りつづけていると、いささか厭きる。
金に糸目をつけなければ、満漢全席だって作れないこともないが、
なにせこの不景気である。食費に金はかけられない。
バブル時代の再現を夢見るのは愚かなことだが、こう景気が悪いと
あの気狂いじみた浮かれぶりが、かえって懐かしくなる。
地球を1週間で回ってくれ、と某新聞社系の雑誌社に頼まれたことがある。
金にあかせて大名旅行をやってくれ、というような優雅なものではない。
詳しい中身は忘れてしまったが、たとえば月曜日にバイカル湖のA地点に立ち、
水曜日にはマダガスカル島のB地点に立つ。
指定された場所に立っていると、見知らぬ男(女もある)が近づいてきて、
紙切れを渡される。その紙切れには次に行くべき場所が書かれている。
守るべき条件は、どんな乗り物を使ってもいいから決められた場所に
時間どおり到着すること。そして1週間で地球をひとまわりする。
その一部始終をおもしろおかしく読み物にまとめてくれ、という依頼である。
今から思えば、何というバカバカしい企画だろう、と思う。
カネ余りになると、人間はここまで愚かなことを考えるのか、
という見本のような企画である。でも、あのバブルの時代は、
こんな呆れ返ったような企画が目白押しだった。
僕は体よく断った。行かなくてよかった、と今でも思っている。
バイカル湖のA地点といったって、ピンポイントで場所が特定されている
わけではない。
「ただ湖の畔に立っていればいいんです。行けば分かりますよ、ハハハ……」
と、雑誌の編集長はのんきに笑うのだが、なんだか気味が悪い。
だいいちロシアなんて行ったことはないし、英語だってろくすっぽしゃべれない。
バイカル湖の畔に着くまでに、たぶん迷子になるか遭難してしまうだろう。
またヨーロッパの星付きレストランを数週間にわたってはしごしたこともある。
金は使い放題。毎夜、高価なワインをばんばん空けた。
どうせ俺のカネじゃない、と思えば、人間の精神は限りなく堕落し、
欲望のおもむくままに行動する。人間がだんだんケモノ化していく。
思えばあれは〝邯鄲の夢〟だった。覚めてみれば、
まるで夢幻のごとくに思えてくる。
世の中のカネと女は仇なり。どうか仇にめぐり合いたし
こんな〝夢〟を見ているうちが花か……
2 件のコメント:
こういう軽く読めるのはいい。
しかし文脈の奥深さはタイムリーだ。
バブル時代は「金」。庶民も実感できた。
いまは、「検察」という権力だけに恐ろしい。
しかも、庶民には縁遠く、よくわからない。
「証拠の改竄」が庶民のアチキにどう関わるか、理解できない。
団塊の世代
匿名様
コメントありがとう。
これからは軽く読めそうなネタを
心がけます。
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