暑さのせいか、だれもみな恐い顔をしている。
ちょっと身体がぶつかっただけでも暴発事故が起こりそうで、
人混みが、恐い。
「もっと気楽に行こうぜ、ベイビー!」
恐い顔をした人たちに陽気に声をかけたいところだが、
当の僕がいちばん恐い顔をしているのだから始末に悪い。
カミュの『異邦人』の主人公・ムルソーは殺人の動機を、
ギラギラと照りつける太陽のせい、とした。
判決は死刑だった。が、彼は幸福だった。
日本が敗けた8月15日の今日、
母の顔を見に行った。siblingsはみな集まって酒盛りをしていた。
そのかたわらで、老母は子や孫たちの顔をじっと見ていた。
母はますます幼児化し、半分、猫になっていた。
ほどなく、弟夫婦と近くの寺まで送り火をした。
墓には残照が激しく照りつけ、軽いめまいさえ覚えた。
父の墓の近くには、自殺した友人Yの墓もある。
花と線香を供え、若き日の友の顔を思った。
「よく来たな。ずいぶんお見限りだったじゃないの……」
相変わらず口元にsneerな笑いを浮かべていた。
地獄の釜が開くという盂蘭盆。
精霊たちも、娑婆に戻ったはいいけれど、
この猛暑には呆れただろう。
「おやじ、まあビールでも飲みなよ。ところで、
地獄の景気はどんなあんばいだい?」
温帯から亜熱帯になってしまったニッポン。
そのうち熱帯に変わって、ますますビールが売れるだろうが、
ニンゲン様の顔はますます険悪になっていくだろう。
そして第2、第3のムルソーが出てくるたんびに世間は驚いたふりをして、
人間存在の不条理性がどうしたこうしたと、妙な理屈をこね始めるのだ。
かったるいなァ……。
今夜も寝苦しい夜になりそうだ。
何も考える気がしない。
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