2014年7月29日火曜日

「壁ドン」を夢見るAlexia

仏人留学生のAlexiaが帰国を前にして別れの挨拶に来た。
彼女は18歳の時、高校生留学で日本に初来日、その後、リヨン大学から慶大への
交換留学生として再来日していたが、1年経ったので、来月初旬に帰国する。

セーラームーンなど日本のアニメで育ったAlexiaは、子どもの頃から日本に憬れを持ち、
その逆に「フランスはもうダメ。フランスの男はサイテー」などと、自国のことを悪し様にいう。
《ふらんすへ行きたしと思へどもふらんすはあまりに遠し……》と、いまだにその憧憬の念を
捨てかねている旧世代のボクとしては、彼女の言葉はあまりに哀しく切ない。

Alexiaはおしゃべり好きの女の子だ。高校生の時も、ボクとはいろんな話をした。
およそ半年で日本語の会話をほぼマスター、政治経済から、文学哲学までかなり
突っ込んだ話をした憶えがある。今回の再来日でさらに日本語力はブラッシュアップ、
ヨーロッパの歴史からEUが抱える諸種の問題、人種問題、人権問題、結婚観と、
ワインを飲みながら深夜まで語り合った。

ボクは彼女の問題意識の高さに驚くと共に、日本語の上達の速さにも目を見張る思い
がした。そしてまた一方で、(同年代の日本の女の子にこの種の議論はムリだろうな)と
いう諦めに似た思いも感じていた。大いなる独断と偏見で言わせてもらうと、
わが日本の女の子たちが得意なのは芸能スキャンダルとおしゃれ、ダイエットの話、
グルメの話、旅行談がせいぜいで、政治の話なんかしようものなら「わかんなーい!」の
一言でチョンだ。「集団的自衛権」だとか「特定秘密保護法(スパイ防止法)」なんて話題を
出したら、「この人、危ないおやじかも……」といっぺんに引かれてしまう。

だからといってAlexiaが堅物かというとそうではない。ごくふつう(?)の女の子で、
いつもセーラームーンみたいな怪しげな恰好をし、お色気ムンムンで大道を闊歩している。
「お父さん、〝カベドン〟って知ってる?」
Alexiaがいきなり難問をぶつけてきた。
ひょっとしてドカベンの間違いだろうか? それともカツドン? いや牛丼メニューの新種か?
若者文化、若者言葉にそっぽを向いているおじさんには、何のことやらさっぱり分からない。

聞けば、男が女を口説く時に使う〝胸キュン〟の仕草で、
壁際で女に迫り、その際に壁を手で「ドン!」とついて、女の退路を断ち、
何かグッとくるセリフを吐くシチュエーションなのだという。だから文字どおりの「壁ドン!」。
私も〝壁ドン!〟された~い
Alexiaは少女漫画のヒロインみたいな目をして、そうつぶやくのだ。

(今どきの若い奴はそんなキザなマネをして女を口説いてんのか……)
〝もののふ〟を自任するおじさんは、ある種の腹立たしさと妬ましさを感じながら、
Alexiaの夢見顔にしばし見入っていた。
(ふん、なにが〝壁ドン〟だ! ふざけたマネを……おじさんだってできるんだぞ)
心の中で力んでみたが、なんだかとっても虚しかった。

気分を変えようと、
「子豚ちゃん(彼女の愛称です)、カフェオレでも飲もうか?」
と言ったら、フランス人はカフェオレなんて飲まないよ、とAlexia。
高校生の時に初めて日本に来て、最初のホストファミリーの家で、
「フランス人はコーヒーといえばカフェオレでしょ?」
と聞かれ、面食らったという。

「パリっ子のごく一部は朝に飲むかもしれないけど、ごくふつうのフランス人は
カフェオレなんて飲まないの。日本に来て、カフェオレのこと、初めて知ったよ」
これにはおじさんも驚いてしまった。彼女はロレーヌ地方の出身だが、
飲むのはただのコーヒーだという。

というわけでカフェオレはやめ、明るいうちからビールを飲むことにした。
つまみはプロセスチーズとシソの葉を餃子の皮で巻き、油で揚げたもの。
チーズにうるさいフランス人にこんなつまみが合うかしら、と思ったが、
意外や意外、「これ、おいしいね」とムシャムシャパクパク。
〝子豚ちゃん〟の愛称に違わず、何を出しても「おいしい、おいしい」と
健啖家ぶりを発揮してくれた。

フランスへ帰国したら大学院に進むAlexia。
卒業したら、「就活」のため、また来日する予定だという。
いつか素敵な男性に「壁ドン」されるといいね。



←しかしこれが現実の「壁ドン!」。
女の子の戸惑いの表情が最高!

(カップヌードルのテレビCMより)












 

2 件のコメント:

田舎者 さんのコメント...

嶋中労さま

おはようございます。

今でもフランスに憧れている百姓です。

1990年今から24年前、今話題のマレーシア航空の南周りでフランスに行ったのです。
クアラランプール、ドバイ・・・・パリ、何時間飛行機のなかにいたのか分からないくらいでした。

モンパルルナスのアパートを中心にワイン産地めぐりをポケット辞書一つで観てまわりました。
祖父が危篤になり帰国。予定の半分の旅でしたがとてもよい想い出がいっぱいです。だが一つだけ
後悔したことが語学、フランス語のいろはが分からずに行ってしまったことです。

帰国後NHKのフランス語会話を習ったのですが続かず今だ会話能力ゼロ。そんな百姓ですが
もし機会があればAlexiaさんと話がしてみたいと思った訳なのです。フランスの旅で
ブルゴーニュと南フランスには行っていませんので。

酔った活きよいで書いてしまった田舎者でした。

ROU.SHIMANAKA さんのコメント...

田舎者様

おはようございます。

こう暑いと百姓仕事も楽じゃないでしょうね。熱中症には十分気をつけてください。

さてフランスのワイン産地をめぐった話ですが、いい思い出ができてよかったですね。

Alexiaは日本語も上手ですが、
フランス語も上手です(笑)。
他にスペイン語、英語、ドイツ語を話します。

NHKの語学講座はいいですね。
わが家はボクを除いて、全員ラジオ講座を
やっていました。女房がイタリア語、娘2人が英語です。中学から高校まで6年間はやったでしょうか。

「継続は力」ですね。
女房はイタリア語の読み書きができ、
ちょっとだけしゃべることもできます。
みんなラジオ講座のおかげです。
性格がしつこいですから、語学習得には向いているんです。


ボクは「三日坊主」という〝持病〟があって、何をやっても長続きしません。

語学は持続する力がすべてですから、
根気のない人間には向きませんね。

東京オリンピックまでには何とかしなくっちゃ――せめて英語くらいしゃべりたいものです。