2013年11月27日水曜日

サブちゃんのフェットチーネ

先週の日曜日、ローマっ子のサブリナが遊びに来た。
相変わらずお目々も口も大きく、「濃い顔」をしている。
抜群のプロポーションもこれまた相変わらずだ。

先々週に来た仏人のアレクシアと同じく、日本語がずいぶん達者になり、
かなりこみ入った話もできるようになったのは何より嬉しい。
長女とは大の仲良しで、昼間は二人して新宿御苑で紅葉狩りをしてきたという。

「今夜のメインディッシュはこのサブちゃんが腕をふるうよ」
なんだかやけに張り切っている。見れば、スーパーで何やらごっそり買い込んできた。
聞けば、腕によりをかけた手打ちパスタをごちそうしてくれるという。

(大丈夫かな……食べられる代物であればいいんだけど)
ボクの心配顔を見透かしたように、
「マンマ直伝のフェットチーネだからね。絶対美味しいに決まってるよ」
ボクの顔をにらみつけた。
「お父さんはじゃまだから、あっち行って」
とうとう台所から追い出されてしまった。

麺棒は死んだ母親からもらった手打ちうどん用のもの。
しかし、のし台がない。仕方がないから、以前解体しておいたパソコン用デスクの
天板で代用してもらった。半端なのし台を一瞥したサブリナは不満そうな顔で、
「これ、小さいね」
「ごめんよ、これしかないんだ。名人は道具を選ばないんじゃないの?」
皮肉を言ってやったら、ニヤッと笑って、
「しかたないね。これでのばすよ」

ローマ辺りではフェットチーネというが、北のほうではタリアテッレと呼ぶことも。
きしめんみたいに幅広のパスタで、それを今、ヒィヒィ言いながらサブちゃんが
打っている。のし台が小さいから、あらかじめ生地を4分割しておいた。

「なんだか分厚いフェットチーネになりそうだな」
切る段になって、チラと見たら、まだ十分にのし切っていない状態で、
ほうとうみたいにもっそりしている。サブリナもそのことを認めているのだが、
もう疲れ切ったようすで、修正する気はサラサラ無さそうだ。

「ま、胃袋に収まっちゃえば、みんな同じだからな。分厚いフェットちゃんでもかまわんよ」
横から口を出したら、「シッシッ」と肱でつつかれ、またまた追っ払われてしまった。

トマトソース系のフェットチーネの他はイタリア流のミートボール。
何という料理名だったか忘れてしまったが、細かなイタリアのパン粉がまぶしてあり、
それをフライパンでソテーしてある。

「いっただきまーす」
ワインで乾杯して、さっそくほうとうみたいなフェットちゃんを食べてみた。
「…………」
みんな無言。サブリナも下を向いて黙ってる。
「生地がちょっと厚いけど、おいしいよ。塩がちょっぴり足りないかな」
女房が正直な感想を一言。食卓にスイスアルプスの岩塩を持ってきて、
サッサッとふりかけている。長女もサッサッ。ボクも遠慮なくサッサッサッ……。
サブリナだけは沽券にかかわるとばかり、いっさい無視。黙々と食べている。

「サブちゃん、サラダも食べたら?」
ひたすらパスタを食べ続けているサブリナに向かって、ボクの手づくりサラダを勧めたら、
「サラダはメインディッシュの後ね」
なるほど、イタリア式にプリモピアット(第1の皿)のパスタをまず平らげて、
それから主菜のセコンドピアット(第2の皿)を食べ、コントルノ(サイドディッシュ)
のサラダ、ドルチェ、カッフェとつなげるつもりなのだ。
身体に染みついた作法なのだろう。

ああ、お腹いっぱい。ごちそうさまでした。
甘いデザートワインを飲みながらしばし歓談。

出てきた話は「今のローマは昔のローマじゃない」「もうイタリアには帰りたくない」
といった嘆き節ばかり。フランス人留学生のアレクシアがこぼした中身と同じである。
アフリカや西アジアなどからの移民が増えて、急に治安がわるくなり、街が荒んできた。
「もう怖くて、一人では歩けないね」
あの陽気なサブリナが嘆くのだから、事態はかなり深刻なのだろう。
サブリナはつい数日前にイタリアから帰ったばかりなのだ。

それでも笑顔の似合うサブちゃん。
イタリア式ジェスチャーの数々をレクチャーしてくれて、
そのたびにわが家は笑い声に包まれた。

麗しのサブちゃん、また遊びに来てね。

 

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